【書評】2050年の世界:見えない未来の考え方

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目次

要点

本書の要点

  • 要点1世界に変化をもたらす5つの力とは、人口動態、資源と環境、貿易と金融、テクノロジー、そして政治と統治である。
  • 要点22050年もアメリカ合衆国が支配的なのは変わらない。一方で、南アメリカの発展は、人口と面積の半分近くを占めるブラジルにかかっている。
  • 要点3人口が減り世界経済に及ぼす影響も小さくなるヨーロッパの重要性は下がっていく。
  • 要点4アジアは非常に重要な地域になり、中国とインドの存在感はさらに大きくなる。ただしどちらの国も大きな課題を抱えている。

わたしたちがいま生きている世界

今日の世界が明日の世界を形づくる

国には変えられるものと変えられないものがある。国の経済について考えるときは、その点を区別することが大切だ。たとえば貧しい隣国に囲まれた内陸の小国が、自分たちの立地を変えることはできない。一方で、経済運営については変えることができる。

2050年までに、経済の地位が劇的に上がる国もあれば、あまり変わらない国もあるだろう。しかし、経済成長の原動力について、画一的な見方をするのもよくないことだ。そうした考え方は行き詰まっており、それ以外の要因のほうが大切になる。本書では、そうした要因のことを「変化をもたらす5つの力」と呼ぶことにする。この5つの力とは、人口動態、資源と環境、貿易と金融、テクノロジー、そして政治と統治である。

変化をもたらす5つの力

人口動態

国連の推計によると、世界人口は2050年には100億人弱になると予想されている。そのとき、世界で最も人口が多くなるのはインドで、16億人を超える。14億人の中国がそれに続き、約4億人のアメリカが3位、4億人弱のナイジェリアが4位になる。

人口動態には3つの大きな流れがある。1つは、先進世界全体の高齢化だ。このとき参考になるのが日本である。日本では、2045年には労働力の4分の1が75歳以上になるほど少子高齢化が進行している。だが、いままでのところ秩序は保たれており、清潔かつ犯罪も少ない。高齢化が進むと、イノベーションは生まれにくくなり、生活水準も下がってくる。ただし、若い人たちがその事実を受け入れられれば、高齢化社会でも円滑に回るはずだ。

2つめの流れは、アジアの人口の重心が中国からインドにシフトすることである。この先、インドの存在感が大きくなるのは疑いようがない。中国も日本のように高齢化が進む国であり、活力は徐々に失われていく。逆にインドは、「若者の雇用を生み出す」というインド亜大陸の最重要課題を抱えながらも、活気と勢いに満ちた国となるだろう。

3つめの流れは、アフリカの人口急増である。サハラ以南アフリカの総人口は、2019年の時点で10億5000万人だったが、このままいくと2050年にはその2倍になる。もちろん、その頃には勢いが収まっているかもしれないが、アフリカの影響力が高まるのは間違いない。

資源と環境

「資源と環境」に目を向けると、いま最も重要な課題は気候変動である。気候変動は食料や水、エネルギーといった、環境と天然資源に関するあらゆる問題に大きな影響を与えるからだ。

産業革命がはじまる前の1850年から1900年の平均気温を基準とすると、2021年の世界の気温は1℃以上上昇した。パリ協定で定められた目標は、産業革命前と比較して世界の平均気温の上昇を1.5℃までに抑えることである。もしそれが達成できれば、2050年までは漸進的な進歩が続き、炭素の排出量も減少に転じるだろう。世界の気温はある程度まで上がりつづけるが、2100年にはピークアウトするはずだ。逆に気温の上昇が2℃を超える場合は、世界は新型コロナウイルスのときのように総力戦で対処せざるをえなくなる。

どちらのシナリオをたどることになるかは現時点で不明だが、1.5℃上昇する場合と2℃上昇する場合で、結果は大きく異なる。いずれにせよ気候変動は2050年以降も、最大の懸念事項になるだろう。

貿易と金融

今後30年で、国際貿易の性質は一変し、貿易のグローバル化は鳴りを潜める。それは、保護貿易を求める政治的な力が働くからだけではない。大量の財を船や飛行機で世界中に運ぶ必要がなくなり、現地生産に重点がシフトするからである。

事実、世界の貿易量はすでに減速している。これには4つの要因がある。1つめは、新興世界と先進世界の賃金格差が縮小していること。2つめは、製造業のあり方が変化していること。3つめは、消費者の選択基準が変化していること。そして4つめは、購買パターンが財からサービスに移り変わっていることである。

特に重要なのが4つめだ。サービスは財と違い、消費される場所と同じところで生産しなければならないという性質をもつ。サービスの貿易は今後も拡大することから、財の貿易のGDP比率は下がっていくだろう。

進歩するテクノロジー

次の30年にテクノロジーが進歩するのは間違いない。テクノロジーの進歩には漸進的なものと革命的なものがある。だが、いまあるテクノロジーが漸進的に進歩するだけでも、医療、教育、流通・輸送、住まい、そして雇用市場で大きな変化が起きる。

2050年までに私たちの健康状態はよくなり、教育を受けるために必要なコストは下がる。そして都市部はいまよりも住みやすくなり、高スキル労働者に対する需要は増えていくだろう。さらに、AIの発展も大きな影響を与える。ビッグデータとAIの組み合わせは、プライバシーの問題を引き起こしながら、まだ想像もできないようなサービスを生んでいくはずだ。

革命的な進歩については予測が難しいものの、起こるとしたらエネルギー、医療、バイオテクノロジー、超自然領域、そして宇宙の領域だと予想できる。特にバイオテクノロジーは社会に衝撃をもたらす可能性が高い。遺伝子操作による「パーフェクトベビー」の存在もそうだし、農業でもすでに大きな変化が見てとれる。

政府と統治

民主主義はとても強力なものであり、回復力も高い。今後も民主主義を採用している国の大半では、なんらかの形で残るはずだ。とはいえ、失望が続けば変化は否めない。その場合、このまま手探りで進むか、民主主義が後退するか、あるいは前進するか、という3つの道に分かれてくる。

ほとんどの民主主義国家では、「このまま手探りで進む」と予想される。ときには急進的な指導者が誕生するだろうが、その後は主流派に戻る。ただし一部では、民主主義が後退する国、すなわち独裁やエリート支配に戻る国も出てくるかもしれない。さらには、直接民主制を採用する国が生まれる可能性もある。

また、宗教も社会的態度を形づくる強大な力をもっており、それは今後も変わらない。宗教が生き方に関する思想の対立を和らげる可能性もある。2050年でもキリスト教徒の数が最も多いが、イスラム教徒の数との差は縮まると見られる。大切なのは、異なる信仰をもつ人たち、信仰をもたない人たちがともに平和に暮らすことであり、それを実現する政治体制を築くことである。

必読ポイント!2050年の世界はどうなっているのか

主に前向きな10の展望

著者は、2050年の世界について次の10の展望を掲げている。

  • 世界人口の約3分の2が中間層と富裕層になる
  • アメリカの先行きは明るい
  • アングロ圏が台頭する
  • 中国が攻撃から協調に転じる
  • EUは中核国と周辺国に分かれる
  • インド亜大陸の勢力が強まり、世界の未来を形成する
  • アフリカの重要性が高まり、若い人材の宝庫となる
  • グローバル化は「モノ」から「アイデアと資金」にシフトする
  • テクノロジーが社会課題を解決する
  • 人類と地球の調和が増す

そのうえで、各大陸の国々の今後を提示している。要約ではアメリカ大陸、ヨーロッパ大陸、アジア大陸の主要な国の大枠について取り上げる。

アメリカ大陸

2050年になっても、アメリカ合衆国は支配的でありつづける。経済規模こそ中国をわずかに下回るが、依然として世界でいちばん豊かであり、世界最速で成長するに違いない。世界中の才能はさらにアメリカへ集まり、いまの社会、政治、経済の課題は解決される。対抗馬である中国が、高齢化し収縮していくのとは対照的だ。その結果、人口は約4億人に増えるだろう。

もちろん課題はたくさんある。たとえば、大規模な移住は混乱を生む。だがアメリカ合衆国の膨大な中間層の生活水準がある程度上がれば、2020年代初頭と比べて穏やかになり、分断も小さくなるかもしれない。それだけのポテンシャルがこの国にはある。

南アメリカに関しては、ブラジルがどうなるかが最も重要だ。今後、南アメリカが相対的に豊かだった19世紀末のポジションを取り戻せるかどうかは、ブラジルの統治がうまくいくかにかかっている。というのも、ブラジルは南アメリカの面積と人口の半分近くを占めるからである。

いずれにせよ、2050年にはブラジルの経済規模は世界トップ10には入るはずである。ラテンアメリカ経済全体が長期的にわたって成功するかは五分五分である。だが、うまくいけば中所得国の罠を避けようとしている他の地域の希望になるだろう。

ヨーロッパ

ヨーロッパは今後も最も暮らしやすい場所のひとつであることは間違いない。だがヨーロッパの重要性は下がっていくだろう。人口も減り、世界経済に及ぼす影響も小さくなる。

2050年のヨーロッパの人口構成は、2020年の日本と同じようなものになる。ただし日本とは異なる点が3つある。北と南、移民受け入れ派と否定派、そしてアングロ圏と非アングロ圏とで、文化が大きく異なる点だ。ヨーロッパの国々が細分化する傾向は、さらに加速しそうである。

経済の重要性が下がり、人口が高齢化すると、EUは大きな危機を迎えることになる。東ヨーロッパからは不満の声が上がり、ナショナリズムが加速する。スカンジナビア諸国は、EUに加入していないアイスランドやノルウェーのような道を選択するかもしれない。イタリアやギリシャ、あるいはスペインやポルトガルといった南ヨーロッパの国からも不満が出てくる可能性はある。

EUが2100年には別の形になっているのは疑いようもない。一番ありうるのは、周辺国と中核国に分かれることだ。もちろん定常状態に落ち着くかもしれないし、逆にEUというシステムそのものが崩壊するかもしれない。国防やエネルギー安全保障など、共通の目標を達成するために、必要最小限の協調を保つという方向性もある。

アジア

アジアは地球の未来にとって、きわめて重要だ。

なかでも中国は、2050年には世界最大の経済国になっていることが予想される。ただし、その過程でいくつもの課題に直面するため、2050年には衰退へと向かい、重要性は相対的に下がるだろう。2030年か2040年代になんらかの転機が訪れ、方向転換を迫られるのではないか。大きな課題は環境、技術のリーダーシップ、そして国内の安定である。

中国と同じぐらい大切なのがインドである。2050年には世界3位の経済規模になり、それ以降も世界GDPに占めるインドのシェアはさらに上がるはずだ。一方で、インドには4つの課題が待ち受ける。国のインフラ改善、環境問題、教育の問題、そして格差の問題である。格差は、分断とナショナリズムを促進する。くわえてインドは、対外紛争がエスカレートし、戦争に突入するリスクも抱えている。

日本は高齢化がさらに進み、2050年には人口が1億人前後にまで減る。小さい町は放棄され、田畑は森になり、工場は高齢者のコミュニティに置き換わっていく。それでも日本が大規模な移民を受け入れることは考えがたい。日本は日本でありつづけ、より内向きで特殊な国になる。世界にあまり関心をもたなくなり、国民を支えることと深刻な財政問題を管理することに注力するだろう。

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この記事を書いた人

真毅のアバター 真毅 自由人

趣味はカメラ、ランニング、読書。職業はシステムエンジニア。昔はリサーチハウスで企業調査、産業分析を行っていました。目標は投資で稼いでゆっくり生きる。資格はFP2級、証券アナリスト。投資対象は日本株、米国ETF、金、暗号資産、不動産。金融資産と実物資産の両輪で資産形成。

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