はじめに:投資はギャンブル?この本が示す「新しい答え」
「投資って、結局はギャンブルみたいなものでしょう?」
投資を始めようと思ったとき、多くの人がこの不安を感じるかもしれません。毎日変動する株価を見ていると、自分の大切なお金が運だけで動いているように思えて、怖くなってしまうのも無理はありません。
しかし、もし投資が「運」だけでなく、正しい「考え方」と「技術」で勝率を上げられるゲームだとしたら、どうでしょうか。
今回ご紹介する書籍、『確率思考で市場を制する最強の投資術』は、まさにその「新しい答え」を示してくれる一冊です。この本がユニークなのは、経済の専門家であるエミン・ユルマズ氏と、ポーカーの世界チャンピオンである木原直哉氏という、まったく異なる分野のプロフェッショナル二人の対談形式で書かれている点です 。
本書の根底にあるのは、「ポーカーで勝ち続けるための戦略は、株式投資で成功するためにも驚くほど有効である」という画期的なアイデアです。
インフレや円安など、先行きが不透明な時代だからこそ、本書が教える「ブレない思考法」は、投資初心者が最初に身につけるべき最強の武器になります 。
この記事では、投資の専門用語を一切使わずに、本書の核心的な教えをわかりやすく解説します。読み終えるころには、投資に対する漠然とした不安が、確かな自信へと変わっているはずです。
なぜポーカー?投資と驚くほど似ている「3つの共通点」
なぜ、投資の話をするのにポーカーなのでしょうか。それは、一見すると全く違う世界に見えるこの二つが、「不完全情報ゲーム」という点で本質的に同じだからです 。
「不完全情報ゲーム」とは、判断に必要な情報がすべては揃っていない状態で行うゲームのことです。ポーカーでは相手の手札が見えません。投資では、未来の経済がどうなるか、誰も100%確信することはできません。
この「わからない」状況で、いかにして最善の判断を下し続けるか。そこに、ポーカーと投資の深い共通点があります。本書が解き明かす、3つの重要な共通点を見ていきましょう。
1. 「スキル」と「運」の絶妙なバランス
投資もポーカーも、短期的に見れば「運」が結果を大きく左右します。投資初心者がたまたま買った株が急騰することもあれば、百戦錬磨のプロが不運に見舞われることもあります 。このため、投資はギャンブルだと思われがちなのです。
しかし、本書は明確に「長期的に見れば、結果はスキルに収束する」と断言します 。優れたプレイヤーは、運が良いときに利益を最大化し、運が悪いときには損失を最小限に抑える技術を持っています。
一度の勝ち負けに一喜一憂するのではなく、長期的にプラスになる行動を淡々と続けられるかどうかが、本当の実力なのです。
2. 「リスク管理」が勝敗を分ける
大きなリターンを得るためには、リスクを取らなければならない。これは投資の世界の鉄則です 。ポーカーでも、チップを賭けなければゲームに勝つことはできません。
ここで重要なのは、優秀な投資家やポーカープレイヤーは、無謀なリスクを取る人ではないということです。彼らは、どのリスクが取る価値のある「良いリスク」で、どのリスクが避けるべき「悪いリスク」なのかを冷静に判断します。
そして、最悪の事態(市場の暴落や、ポーカーでの大敗)が起きても、再起不能にならないように資金を管理します。生き残り続けることこそが、勝利への絶対条件だと知っているからです 。
3. 「メンタル」こそが最強の武器
市場が熱狂しているときに「もっと儲かるはずだ」と欲を出し、暴落が始まると「すべてを失うかもしれない」と恐怖に駆られて投げ売りしてしまう。こうした感情的な判断は、投資で失敗する最大の原因です。
これはポーカーも同じです。冷静さを失い、感情的に大きな賭けに出てしまえば、それまで積み上げてきた利益を瞬時に失いかねません。
本書は、どんな状況でも心を平穏に保ち、合理的な判断を下し続けるための「確率的な思考法」こそが、投資家にとって最強の武器になると教えてくれます 。

著者紹介:最強タッグから学ぶ「勝つための視点」
この本の面白さは、二人の著者の異なる視点が交差することで、投資の本質が立体的に浮かび上がってくる点にあります。まさに最強のタッグと言えるお二人をご紹介します。
- エミン・ユルマズ氏: トルコ出身のエコノミスト。東京大学大学院を卒業後、野村證券などでキャリアを積んだ、金融市場分析のプロフェッショナルです 。経済の大きな流れを読み解く専門家です。
- 木原直哉氏: 同じく東京大学を卒業後、プロポーカープレイヤーに転身。2012年にはポーカーの世界最高峰の大会「ワールドシリーズ・オブ・ポーカー(WSOP)」で日本人として初めて優勝し、世界チャンピオンに輝いた、勝負の世界の伝説的な人物です 。
レビューの中には「木原氏が株式投資の経験が比較的浅いため、初心者にも分かりやすい対談になっている」という声もあり、専門家同士の難しい話に終わらない、親しみやすさも本書の魅力です 。
二人のアプローチは、投資における「アート(物語)」と「サイエンス(確率)」の両面を表しており、どちらか一方だけでは不十分であることを教えてくれます。優れた投資家は、企業の未来を夢想する芸術家であると同時に、冷徹な確率計算家でなければなりません。この二つの視点を組み合わせることで、初めて長期的な成功への道が開けるのです。
| 特徴 | エミン・ユルマズ氏 | 木原直哉氏 |
| 専門分野 | エコノミスト | プロポーカープレイヤー |
| 投資アプローチ | 長期的な「ストーリー投資」 | 「確率思考」とリスク管理 |
| キーワード | 企業の物語、守り重視 | 期待値、冷静な判断 |
本書の核心!「確率思考」で投資に勝つ方法
本書のタイトルにもなっている「確率思考」とは、一体何でしょうか。これは、一つ一つの結果に心を揺さぶられるのではなく、長期的に見て最も有利な選択をし続ける考え方のことです。その中心にあるのが「期待値」という概念です。
「期待値」ってなんだろう?
「期待値」と聞くと、なんだか難しそうな数学の話に聞こえるかもしれません。でも、考え方はとてもシンプルです。
ここに、簡単なゲームがあると想像してみてください。
- 参加費は100円です。
- コインを投げて、裏が出たら100円は没収されます(マイナス100円)。
- でも、表が出たら300円がもらえます(プラス200円)。
このゲーム、あなたなら参加しますか?
おそらく、ほとんどの人が「参加する」と答えるでしょう。もちろん、1回や2回なら裏が出て損をするかもしれません。しかし、このゲームを10回、100回と続ければ、トータルではプラスになる可能性が非常に高いと直感的にわかるはずです。この「一回あたりの平均的な見返り」こそが「期待値」です 。
優れた投資家は、常にこの「期待値が高い」投資先を探しています。目先の株価の動きに惑わされるのではなく、「この投資は、長期的に見てプラスのリターンが見込めるか?」という基準で判断を下すのです。
良い判断と、良い結果は違う
この期待値という考え方を身につけると、投資に対する見方が大きく変わります。プロポーカープレイヤーである木原氏は、「正しいプレイをしても、裏目に出ることはある」と言います 。
これは投資でも全く同じです。十分に考えて「期待値が高い」と判断して投資した株が、一時的に下がってしまうことはあります。逆に、何も考えずに買った株が、運良く上がることもあります。
大切なのは、結果に一喜一憂しないことです。あなたの目標は、100%勝つことではありません。それは不可能です。あなたの目標は、期待値の高い「良い判断」を、何度も何度も繰り返し続けることです。この思考法こそが、感情的な売買を防ぎ、長期的な資産形成を可能にする、最強のメンタル管理術なのです。

初心者でも実践できる!明日から使える3つの投資術
本書の素晴らしい点は、ただの心構えを説くだけでなく、初心者がすぐに実践できる具体的な方法論にまで落とし込んでいることです。ここでは、明日から使える3つの投資術をご紹介します。これらは単なるテクニックではなく、発見(ストーリー)→検証(四季報)→実行(リスク管理)という、一つの完成された投資プロセスになっています。
1. エミン流「ストーリー投資」の見つけ方
エミン氏が推奨するのは、その企業が持つ成長の「物語(ストーリー)」に投資する「ストーリー投資」です 。難しい企業分析から入るのではなく、まずはあなたの身の回りからヒントを探してみましょう 。
- あなたのお気に入りは?: いつも利用している飲食店やお店はありませんか。「安くて美味しいから、つい通ってしまう」と感じるなら、それはその企業が持つ強力な競争力の証かもしれません 。
- 生活に欠かせないサービスは?: あなたの生活を劇的に便利にしてくれたアプリやサービスはありませんか。多くの人が「これなしでは生活できない」と感じているなら、そこには大きな成長の可能性があります。
- 身の回りの変化に気づく: 以前はイマイチだった商品の味が格段に美味しくなったり、いつも空いていたお店が急に行列店になったりしていませんか。そうした「現場の変化」は、企業の成長のサインかもしれません 。
このように、あなた自身の「消費者としての実感」は、プロのアナリストにも負けない強力な情報源になるのです。
2. 木原流「負けないためのリスク管理術」
良い投資先を見つけたら、次に大切なのは「どう買うか」です。ここで、ポーカーチャンピオンのリスク管理術が生きてきます。勝つことよりもまず「負けないこと」、つまり市場から退場しないことが何よりも重要です。
- 分散投資の鉄則: 木原氏は、原則として「一つの銘柄への投資額を、資産全体の10%以内にする」というルールを実践しています 。どんなに自信がある銘柄でも、一つのカゴにすべての卵を盛るようなことはしません。これは、予期せぬ出来事で一つの企業の価値が大きく下がっても、資産全体へのダメージを限定的にするための、プロの知恵です 。
- 損失に対する考え方: ポーカーでは、勝ち目の薄い手札(ハンド)で勝負を続けるのは得策ではありません。早めにゲームから降りる(フォールドする)ことで、損失を最小限に抑え、次のチャンスに備えます。投資も同じで、成長ストーリーが崩れたと感じた銘柄を、損失が小さいうちに売る決断(損切り)は非常に重要です。小さな負けは、長期的に勝ち続けるための必要経費と考えるのです 。
3. 『会社四季報』で宝の株を探すヒント
あなたの「ストーリー」で見つけた企業が、本当に投資する価値があるのかを客観的にチェックするのに最適なツールが『会社四季報』です。これは、日本に上場するすべての企業のデータが載っている季刊誌で、「企業の通知表」のようなものです 。
すべてを読み込む必要はありません。初心者は、まず2つのポイントだけを確認してみましょう 。
- チェック1:売上は伸びているか?
- チェック2:利益は伸びているか?
売上が横ばいでも、利益がしっかり伸びていれば、それは企業が効率的な経営をしている良いサインです。あなたの見つけた「良いストーリー」が、実際の数字でも裏付けられているかを確認する。この一手間が、投資の精度を格段に上げてくれます。

まとめ:投資で勝ち続けるために、一番大切なこと
『確率思考で市場を制する最強の投資術』が私たちに教えてくれる最も大切なことは、特定の銘柄情報や売買タイミングではありません。それは、不確実な市場と向き合い、長期的に勝ち続けるための「思考のOS(オペレーティングシステム)」です。
投資の成功は、優れた企業の「ストーリー」を見つけ出す感性と、それを「確率」に基づいて冷静に実行する規律の掛け算によって生まれます。それは運任せのギャンブルではなく、学び、実践することで上達できるスキルなのです。
一つ一つの勝ち負けに心を乱されることなく、常に期待値の高い判断を繰り返し続ける。この確率思考を身につけることができれば、投資は不安なものではなく、あなたの未来を豊かにするための心強いパートナーになるでしょう。
最後に、本書にあるエミン・ユルマズ氏の力強い言葉を紹介して、この記事を締めくくりたいと思います 。
「日本に生まれたことは、まるでポーカーで最強のハンドであるエイシーズを手にしているのと同じくらいラッキーなことです。あとは、このハンドを正しくプレイする方法を学ぶだけです」
この本は、その「正しいプレイの方法」を学ぶための、最高の入門書です。

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