現在の市場が過熱している有無などを調べるために、S&P500のPERやEPSを確認したくなる時があります。
この記事では簡単に確認できるサイトを紹介するのでS&P500のPERやEPSなどを知りたいときがあれば使ってみて下さい。
はじめに:S&P500の「体温」を測ってみよう
S&P500は、アメリカを代表する優良企業500社の株価をまとめた、とても有名な株価指数です 。多くの投資家が、アメリカ経済全体の「健康状態」を知るための大切な指標として、毎日その動きに注目しています。
投資の世界では、今の市場が「買われすぎ(割高)」なのか、それとも「売られすぎ(割安)」なのかを判断することが、とても重要になります。
この記事では、その判断材料となる「PER」と「EPS」という2つの指標に注目します。これらは、いわば市場の「体温計」のようなものです。現在の市場の体温が平熱なのか、それとも高熱で少し危険な状態なのかを教えてくれます。
この記事を最後まで読めば、投資初心者の方でも、誰でも無料でS&P500の過去のPER・EPSデータを調べられるようになります。
そして、市場の「平熱」や「高熱」の状態を自分で判断できるようになるでしょう。歴史的なデータから、賢い投資判断のヒントを一緒に見つけていきましょう。
投資のキホン:PERとEPSってなんだろう?
ここでは、投資の基本的な指標であるPERとEPSについて、専門用語をなるべく使わずに解説します。この2つを理解するだけで、ニュースで語られる株価の話題がぐっと分かりやすくなります。
EPS (Earnings Per Share) – 企業の「稼ぐ力」を測るものさし
EPSは「1株あたり利益」と訳されます。計算はシンプルで、企業が生み出した純利益を、発行されている株式の数で割ったものです 。
例えば、あるケーキ屋さんが1年間で100万円の利益を上げたとします。そして、そのお店の株が全部で100株あったとしましょう。
この場合、1株あたりの利益(EPS)は1万円になります。EPSの数字が大きいほど、その企業は効率よくお金を稼いでいる、つまり「稼ぐ力が強い」と言えます。
S&P500のEPSは、構成されているアメリカの優良企業500社全体の「稼ぐ力」の合計を示しています。S&P500のEPSが右肩上がりに成長していれば、それはアメリカのトップ企業たちが全体として順調に利益を伸ばしている証拠になるのです。
PER (Price Earnings Ratio) – 株価の「割安度・割高度」を測るものさし
PERは「株価収益率」と訳されます。この指標は、「現在の株価が、1株あたり利益(EPS)の何倍になっているか」を示します 。
計算式は以下の通りです。
PER = 株価 ÷ EPS(1株あたりの純利益)
これもケーキ屋さんで例えてみましょう。EPSが100円のA社の株価が1,000円だった場合、PERは10倍です。これは、投資家たちがA社の利益1円分に対して、10円の値段をつけている、と考えることができます。
もし、同じようにEPSが100円のB社の株価が2,000円だったらどうでしょうか。B社のPERは20倍になります。この場合、B社の方が市場から高く評価されている(将来の成長を期待されている)と判断できます 。
一般的に、PERの数値が低いと株価は「割安」、高いと「割高」とされます。しかし、注意点もあります。これから大きく成長すると期待されている人気企業は、将来性を見越して株が買われるため、PERが高くなる傾向があります。
そのため、一概に「高いから悪い」「低いから良い」とは言えないのが、この指標の面白いところです 。
S&P500のPERの歴史的な平均値は?
では、S&P500全体のPERは、どのくらいが「普通」なのでしょうか。歴史を振り返ると、S&P500のPERは平均して15倍から20倍の間で動いてきました 。
この「15倍~20倍」という数値を、市場の「平熱」として覚えておくと便利です。現在のPERがこの範囲よりずっと高いのか、それとも低いのかを知ることで、市場全体の温度感を客観的に把握する手助けになります。
S&P500のPER推移チャートなどが見れるサイト
multpl
S&P500のPERやEPSが個別に見れて便利です。
また、年次や月次のデータを表形式でも確認できるので実際の数字が知りたい人にも便利です。
PERサイトURL:https://www.multpl.com/s-p-500-pe-ratio
EPSサイトURL:https://www.multpl.com/s-p-500-earnings
実際のチャートは以下になります。

ヒストリカルデータは以下の図のテーブル(Table)を選択すると表示されます。
テーブルは年ごと(ByYear)と月ごと(ByMonth)を選択できます。
もう1つ赤枠をつけている「S&P 500 Earnings」を選択すればEPSのページへ移動できます。見た目は同じです。

macrotrends
macrotrendsはS&P500のチャートとEPSを一緒に見るなど、多彩なグラフがあります。
個人的にはこちらのチャートのほうが見やすいと思います。
PERサイトURL:https://www.macrotrends.net/2577/sp-500-pe-ratio-price-to-earnings-chart
EPSサイトURL:https://www.macrotrends.net/1324/s-p-500-earnings-history

ヒストリカルデータはグラフの上にあるDownload Historical Dataを押すことで出力することができます。

yahoo finance
米国版yahoo financeを活用することで、セクターETFを調べることができます。
検索バーに「VOO」を入力。VOOはS&P500をベンチマークとしたETF

②PE Ratio(TTM)を確認

S&P500最新のPERを調べることができるのがメリットです。
一方、現在のPERのみであり長期トレンドを確認できない点は課題と言えます。
歴史は繰り返す?3つの暴落から学ぶPERの本当の意味
過去のデータを見るだけでは、ただの数字の羅列に見えるかもしれません。しかし、歴史的な暴落時にPERやEPSがどのように動いたのか、そして「なぜ」そうなったのかを知ることで、数字の裏にある本当の意味が見えてきます。
ケース1:ITバブル崩壊 (2000年) – 「期待」が膨らんだ時代の教訓
当時の状況
1990年代の後半、インターネットの登場によって世界は熱狂の渦に包まれました。「.com」という名前がつく会社というだけで株価が何倍にも跳ね上がる、そんな時代でした 。多くのIT企業はまだほとんど利益を出せていないにもかかわらず、「未来はきっとすごいことになる」という人々の期待感だけで、株価はどんどん上がり続けました 。
PERとEPSの動き
- PER: 企業の利益(EPS)が全く増えないのに、株価(Price)だけが急騰したため、PERは異常な高さに達しました。S&P500の長期的なPERを示すCAPEレシオは44倍に達し 、ハイテク株が集まるナスダック市場のPERは200倍を超えるなど、誰が見ても明らかな過熱状態でした 。
- EPS: 多くの新興IT企業は赤字経営だったため、市場全体のEPSの伸びは、株価の爆発的な上昇に全く追いついていませんでした 。

「期待」のPERと「実績」のPERの違い
ITバブルの時の高いPERは、実際の利益(EPS)という裏付けがなく、未来への「期待」や「熱狂」だけで作られたものでした。それはまるで、砂の上にお城を建てるようなもので、非常に不安定でした。結果として、バブルが弾けると株価は70%以上も暴落し、多くの投資家が大きな損失を被りました 。
現在の株式市場でも、一部のハイテク企業のPERは高い水準にあります。しかし、ITバブルの時と決定的に違うのは、今の巨大ハイテク企業は、実際に巨額の利益を上げているという点です 。
同じ「高いPER」でも、その中身が「実績」に裏付けられたものなのか、それとも根拠の薄い「期待」だけなのか。その違いを見極めることが、投資家にとって非常に重要だという教訓を、ITバブルは教えてくれます。
ケース2:リーマンショック (2008年) – PER120倍超えの「罠」
当時の状況
アメリカの住宅ローン問題(サブプライムローン問題)が引き金となり、世界的に有名な投資銀行リーマン・ブラザーズが倒産しました 。これをきっかけに金融機関への不信感が広がり、世界中を巻き込む深刻な経済危機へと発展しました 。
PERとEPSの動き
- 株価: S&P500は、2007年10月の高値から2009年3月の底値まで、約1年半で57%も下落するという大暴落を記録しました 。
- EPS: 深刻な景気後退により、企業の業績は壊滅的な打撃を受けました。S&P500全体のEPSも、ピーク時から約57%も減少しました 。
- PER: ここで、非常に奇妙な現象が起こります。株価がこれだけ暴落しているにもかかわらず、PERは2009年に120倍を超えるという、歴史上ありえないほどの数値を記録したのです 。

PERの分母が消える「統計の罠」
なぜ、株価が下がっているのにPERは急騰したのでしょうか。その答えは、PERの計算式 $株価(P) \div 利益(E)$ に隠されています。
リーマンショックの時、株価(分子)が下落するスピードを、はるかに上回る猛烈なスピードで、企業の利益(分母)が吹き飛んでしまいました。数学の世界では、分母がゼロに近づくと、計算結果は無限に大きくなります。
つまり、この時の「PER 120倍」という数字は、市場が過熱して割高になっていたわけではありません。これは、アメリカ経済全体が機能不全に陥り、企業が利益を全く出せなくなったことの悲鳴だったのです。
これは、数字の表面だけを見て「PERが高いから割高だ」と短絡的に判断することの危険性を教えてくれる、最も重要な教訓の一つです。
ケース3:コロナショック (2020年) – 「異次元の回復」とPER
当時の状況
新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中の経済活動が強制的にストップしました。株式市場は、過去に例を見ないほどのスピードで暴落しました 。
PERとEPSの動き
- 株価: S&P500は2020年2月から3月にかけての、わずか1ヶ月ほどで34%も急落しました。しかし、その後は驚異的なスピードで回復し、なんと、暴落から半年も経たない同年8月には、暴落前の最高値を更新したのです 。
- EPS: 経済活動の停止により、企業の利益は一時的に大きく落ち込みました。
- PER: 株価がV字回復する一方で、企業の利益はすぐには戻らなかったため、PERは再び30倍を超える高い水準になりました 。

金融政策がPERを押し上げるメカニズム
なぜ市場は、これほどまでに早く回復できたのでしょうか。その背景には、世界各国の中央銀行や政府による、大規模な金融緩和と財政出動がありました 。
具体的には、政策金利をほぼゼロにまで引き下げました。これにより、人々は「銀行にお金を預けていても全く増えない。それならリスクを取ってでも株式に投資しよう」と考えるようになります。
金利が低いと、将来、企業が生み出すであろう利益の「現在の価値」が相対的に高まります。そのため、投資家はより高い株価を許容しやすくなり、結果としてPERは上昇する傾向があります 。
また、コロナ禍の「巣ごもり需要」によって、GAFAMに代表される巨大IT企業の業績が絶好調だったことも、市場全体を力強く引っ張り上げる要因となりました 。コロナショック時の高いPERは、
異例の金融政策と、特定の勝ち組企業への資金集中という、現代の市場構造を象徴する出来事だったと言えるでしょう。
結論:過去データは未来を照らす「羅針盤」
この記事では、S&P500のPERとEPSの調べ方と、その歴史的なデータの読み解き方について解説しました。
最後に、大切なポイントをまとめます。
- S&P500のPERやEPSの長期データは、「Macrotrends」などのサイトを使えば、誰でも無料で簡単に調べることができます。
- 歴史的な平均PER(約15〜20倍)を知ることで、現在の市場がどの程度の水準にあるのかを客観的に把握する「ものさし」を持つことができます。
- そして最も重要なのは、数字の裏側にある「なぜ」を考えることです。
- ITバブルの時の高いPERは、利益の裏付けがない「根拠なき期待」でした。
- リーマンショックの時の異常に高いPERは、市場の過熱ではなく「利益消滅の悲鳴」でした。
- コロナショックの時の高いPERは、「異次元の金融緩和と勝ち組企業への資金集中」という特殊な状況が作り出しました。
過去のデータは、未来を100%正確に予測する「水晶玉」ではありません。しかし、市場が熱狂している時や、逆に悲観に暮れている時に、私たちを冷静な判断へと導いてくれる「羅針盤」のような存在になってくれます。
今回学んだ知識を使って、ぜひご自身でデータを調べ、市場の「体温」を感じてみてください。その小さな一歩が、より賢明で、自信に満ちた投資家への道につながっていくはずです。
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