2025年11月8日~14日 週次市場分析:AIバブルへの懸念が市場を直撃、金とビットコインが急落。FRBのタカ派転換が世界同時リスクオフの引き金に

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2025年11月8日から14日の金融市場を分析します。

この記事を読めば、この1週間に起きた株(日米)、コモディティ(金・原油)、暗号資産(ビットコイン)の複雑な値動きと、それらを動かした「2つの隠れたマクロ要因」の連鎖が完全に理解できます。

なぜ好材料があったはずのビットコインが暴落したのか。 なぜ米国株のAIバブル懸念が、日本の日経平均905円安に直結したのか。 その全ての答えと、来週の最重要イベント(Nvidia決算)に向けた戦略を提供します。

目次

セクション 1: エグゼブティブ・サマリー:市場の「完璧な楽観」が崩壊した1週間

楽観から絶望へ:週後半の市場急落

2025年11月8日から14日にかけての金融市場。 この1週間は、劇的な転換点を迎えました。 市場は「完璧を織り込んだ(Priced for Perfection)」状態でした 。   

週前半、市場は楽観ムードに包まれていました。 AI関連の大型案件や、堅調な第3四半期決算への期待が背景にあります 。 S&P 500とNasdaqは、連日で史上最高値を更新していたのです 。   

しかし、この楽観論は週後半に突如として崩壊します。

2つの柱の崩壊

市場の信頼を支えていた2つの柱がありました。 1つは「AIバリュエーションへの絶対的な信頼」 。 もう1つは「米連邦準備制度理事会(FRB)による12月の追加利下げ期待」  です。   

これら2つの柱が、今週同時に揺らぎました。

市場暗転のトリガー

今週の市場を暗転させた主要なトリガーは2つ特定されます。

1. FRBのタカ派転換 カシュカリ、ムサレム、ハマック、ローガンといった複数のFRB高官 。 彼らが相次いで、市場の利下げ期待を牽制するタカ派的な発言を行いました 。   

この結果、CME FedWatch Toolが示す12月の利下げ確率は急低下。 週初の67.8%  から、週末には46%  へと落ち込みました。 市場の期待は、完全に「五分五分」の状態となったのです 。   

2. 米政府機関閉鎖の「終結」 43日間にわたる記録的な米政府機関の閉鎖。 これが13日(水)に終結しました 。   

しかし、これは安堵材料にはなりませんでした。 むしろ逆説的な結果を生みます。 10月の雇用統計やCPI(消費者物価指数)といった最重要データ。 これらが「おそらく発表されない」(likely never)という「データの空白」  を生み出したのです。   

この「データの霧」  が、FRBの政策判断の不透明感を極度に高めました。   

リスクオフのドミノ倒し

このマクロ環境の激変。 それは、市場で最も脆弱なポイントを直撃しました。 すなわち「高すぎるバリュエーション」と「過剰なレバレッジ」です。 連鎖的なリスクオフ(全面的な資産売却)が始まりました。

株式市場(米国・日本) 割高感が限界に達していたNvidiaをはじめとするAI関連ハイテク株。 これらが木曜に急落しました 。 この動きは即座に東京市場にも伝染します。 14日(金)、日経平均がAI・半導体セクター主導で905円安という急落に見舞われました 。   

コモディティ(金) FRBのタカ派転換は、実質金利の上昇とドル高を招きました 。 金利を生まない資産としての金の魅力が急速に低下します。 14日(金)には2.5%という大幅な下落を記録しました 。   

暗号資産(ビットコイン) 新規ETFが事実上承認されるという好材料  がありました。 しかし、市場はそれを完全に無視しました。 ハイテク株(ナスダック)が下落すると、ビットコインも下落する。

この「負の相関(悲観論への連動)」  が露呈します。 これが引き金となり、約18億ドル規模の過剰なレバレッジ(買いポジション)が強制決済 。 価格は暴落しました 。   

唯一の例外:原油(WTI)

この全面的なリスクオフの中、唯一の例外となったのがWTI原油です。 原油価格は、マクロ経済の動向とは完全に切り離されました。 11月21日に期限を迎えるロシア産原油への追加制裁。 この地政学リスク(供給懸念)の高まり  にのみ反応したのです。 週後半、原油は急騰しました 。   

主要市場パフォーマンス・ダッシュボード(2025年11月8日~14日)

資産クラスインデックス週次終値(11/14)週次変動率週間の主要な動き
米国株式S&P 5006,734.11 -0.1% 週初に最高値更新後 、木曜にAI懸念から1.7%急落 
米国株式NASDAQ22,901 -0.5% 木曜に2.3%急落 。AI・ハイテク株のバリュエーション懸念が表面化 
日本株式日経平均22550,376.53 +0.2% 金曜に米株安連動で905円(−1.77%)の急落 。週前半の上昇をほぼ打ち消す
コモディティWTI原油 (先物)$59.95 +2.15% リスクオフの中、ロシア制裁懸念(供給不安)から金曜に急騰 
コモディティ金 (Gold) (先物)$4,090 -2.5% FRBの利下げ期待後退とドル高を受け、金曜に急落 
暗号資産ビットコイン (BTC)約 $94,300 -7.6%5月以来の安値水準 。18億ドルの強制決済を伴い暴落 

セクション 2: 市場の前提を覆した2つのマクロ要因:米政府閉鎖終結とFRBの「タカ派」旋風

今週の市場の前提は、根底から覆されました。 米国の国内政治と金融政策という、2つのマクロ要因が原因です。 特に、政府機関閉鎖の「終結」が、逆説的にも不透明感を高める結果となりました。

2.1. 43日間にわたる米政府機関閉鎖の終結(11月13日)

11月13日(水)遅く。 トランプ大統領は、記録的な43日間の政府機関閉鎖を暫定的に終了させる法案に署名しました 。 当初、市場はこのニュースを好感しました。 金曜の取引開始時には株価が上昇する場面も見られたほどです 。   

「データの空白」という悪夢

しかし、この安堵感はごく短時間で終わりました。 市場はすぐに「データの空白」という深刻な問題に直面します 。   

閉鎖の影響で、主要経済指標の発表が軒並み遅延しました 。 10月の雇用統計、CPI(消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)、貿易収支、小売売上高 。 これらは全て、FRBの政策判断に不可欠なデータです。   

最大の問題は、これらのデータが「いつ、どのような形で発表されるか」が全く不明瞭である点です 。   

ホワイトハウスの報道官は、衝撃的な発表を行いました。 10月の雇用統計とインフレに関する2つの主要な政府報告書について、「おそらく(likely never)発表されない」と述べたと報じられたのです 。   

政策判断の「霧」

これは、市場参加者とFRBの双方にとって「深い霧」  の中での航行を意味します。 FRBは「データ次第(data-dependent)」  の政策運営を公言しています。 しかし、その判断材料となるべき10月分のデータが、まるごと欠落する可能性が出てきたのです。   

したがって、政府機関閉鎖の「終結」は、不確実性の「解消」には繋がりませんでした。 むしろ、12月のFOMC(連邦公開市場委員会)でFRBが利下げを判断するための客観的な根拠を奪ったのです。 政策判断の「不確実性を増大」させるという、ネガティブな要因として作用しました。

これが、市場が12月の利下げ織り込み度合いを後退させた、第1の理由です 。   

2.2. FRB高官による「利下げ期待」の牽制

「データの霧」によってFRBの判断が難しくなる中、今週はFRB高官の発言が集中しました 。 これは、いわば「連邦公開口(くち)委員会」と呼ばれるものです 。   

そして、その発言内容は、市場の楽観的な利下げ期待に冷や水を浴びせるものでした。 「タカ派」(金融引き締めを支持し、インフレを警戒する姿勢)的な発言が相次いだのです。

タカ派的な発言の詳細

  • ニール・カシュカリ総裁(ミネアポリス連銀) 「前回の利下げには反対した。12月の判断も五分五分だ」と発言 。 追加利下げに極めて慎重な姿勢を明確にしました。   
  • アルベルト・ムサレム総裁(セントルイス連銀) インフレが依然として目標を上回る中で、金融政策が「過度に緩和的」になることへの懸念を表明しました 。   
  • ベス・ハマック総裁(クリーブランド連銀) ムサレム総裁と同様に、「過度に緩和的」な政策への懸念を示しました 。   
  • ジェフ・シュミッド総裁(カンザスシティ連銀) 利下げに反対する見解を示しました 。 この発言はドル高を支える要因となりました。   
  • ローリー・ローガン総裁(ダラス連銀) シュミッド総裁と同様に、利下げ反対の見解を表明 。 ドル買いをさらに後押ししました。   

市場への直接的影響

これら一連のタカ派発言は、市場に即座に影響を与えました。

  • 金利先物市場: CME FedWatch Toolによる12月の利下げ確率は急低下 。 先週の67.8%  から46% まで落ち込みました。 今や「コイントス」(五分五分)の状態です 。   
  • 為替市場: タカ派発言を受け、米ドル指数(DXY)は急伸。 2.75ヶ月ぶりの高値を更新しました 。 週末には99.27で取引を終えています 。   
  • 債券市場: 政策転換への懸念から米10年国債利回りは上昇。 一時、月間最高水準となる4.15%に達しました 。   

市場は、FRBが「新たにハト派的なスタンス」  に転換したと楽観的に解釈していました。 しかし、今週のFRB高官による協調的ともいえるタカ派発言は、その楽観論を意図的に否定するものでした。   

「データの空白」(2.1節)と「タカ派発言」(2.2節)が組み合わさった結果、市場の「利下げ期待」という最大の支えが失われました。

これが、今週後半の株式、金、ビットコインの同時急落を引き起こした、最大の単一マクロ要因であると結論付けられます。


セクション 3: 米国・日本株の同時急落:「完璧」への期待が崩れたAIセクター

今週の市場変動で最も象徴的だったのは、AI・ハイテクセクターの急反落です。 このセクターは、これまで市場全体を牽引する「主役」でした。 この動きは米国で始まり、即座に日本市場へ伝染しました。

3.1. 米国市場(Nasdaq / S&P 500):AIバリュエーションへの疑念

今週の急落直前まで、米国市場は「完璧を織り込んだ(Priced for Perfection)」状態にありました 。   

3つの大きな追い風がありました 。   

  1. AI革命への熱狂    
  2. 堅調な企業収益    
  3. FRBのハト派転換(利下げ)への期待    

これらを受け、シラーPER(景気循環調整後の株価収益率)は40倍を超える水準に達していました 。 これは異常な高水準です。 1990年代後半のドットコム・バブル期以来、史上2度目となる水準でした 。  

11月13日:パニック売りとAI懐疑論

この「完璧」の幻想は、セクション2で述べたFRBのタカ派転換によって打ち破られました。

11月13日(木)、市場はパニック的な売りに見舞われます。 Nasdaqは2.3% 、S&P 500は1.7%  と大幅に下落しました。   

この下落の「質」を分析すると、明確な特徴が浮かび上がります。 下落は市場全体に均一に起きたのではありません。 AI・ハイテク株に集中的に発生したのです。

投資家は、セクターを牽引してきた「ハイテク大手企業の高すぎるバリュエーションに怯えた(spooked)」のです 。   

木曜の取引では、主要AI関連銘柄が軒並み急落しました 。 Tesla (TSLA), Palantir (PLTR), Arm Holdings (ARM), Intel (INTC), Nvidia (NVDA), Advanced Micro Devices (AMD), Broadcom (AVGO)。 これらの株価が、3.5%から7%の急落を記録したのです 。   

金利上昇がグロース株を直撃

金利が上昇する局面(セクション2.2)では、将来のキャッシュフローの割引現在価値が低下します。 AI株のような高成長(グロース)株は、その収益の大半が将来に偏っています。 そのため、金利上昇の影響を最も強く受けるのです。

バンク・オブ・アメリカのアナリストは、市場の深層心理を指摘しています 。 「AI投資に対するリターンが明確になる前に、ハイテク大手がどれだけ巨額の支出を続けるべきか」 。 市場ではすでに、このような「AI支出への懐疑論(skepticism around AI spending)」が台頭していました 。   

FRBのタカ派転換(=金利上昇)は、この懐疑論という火種に火をつけました。 AIセクターの「高すぎるバリュエーション」という脆弱性を直撃したのです。 これは、市場の牽引役が楽観から悲観へと反転した決定的な瞬間でした 。   

3.2. 日本市場(日経平均):連鎖した905円安の衝撃(11月14日)

米国市場の混乱は、即座に東京市場へ波及しました。

11月14日(金)の東京株式市場。 日経平均株価は3日ぶりに大幅反落しました 。 前日比905.30円安(−1.77%)の50,376.53円で取引を終えました 。   

下げ幅は取引時間中に一時1,000円を超える場面もありました 。   

直接的な要因は、前日のNYダウの797ドル安、およびNasdaqの大幅な下落です 。 米金融当局者のタカ派発言(セクション2.2)による追加利下げ観測の後退が、市場心理の重しとなりました 。   

905円安の「中身」:AI・半導体の一極集中

注目すべきは、この下落の「質」です。 14日の日経平均急落は、米国市場と全く同じ構図でした。 すなわち、指数寄与度の高いAI・半導体関連銘柄に売りが集中した結果だったのです 。   

具体的には、以下の銘柄が大幅安となりました 。   

  • アドバンテスト (6857)    
  • 東京エレクトロン (8035)    
  • ソフトバンクグループ (9984)    

905円安という数字の「中身」を分析すると、この構図はさらに明確になります。 株探ニュースの分析()によれば、驚くべき事実が判明しています。 アドバンテスト、東京エレクトロン、ソフトバンクGなど、マイナス寄与度の上位5銘柄。 たったこれだけの銘柄で、日経平均を約876円押し下げていたのです 。   

つまり、14日の905円の下げ幅のうち、実に97%近くが、ごく一部の半導体・AI関連の大型株によって説明されてしまいます。

この事実は、金曜日の日本株安が、日本経済全体への悲観ではないことを示しています。 前日のNasdaqから始まった「AIバリュエーション懸念の連鎖(コンテイジョン)」そのものだったのです。

キオクシアHDのストップ安

この全体的な地合いの悪化に追い打ちをかけたのが、半導体メモリー大手のキオクシアホールディングス (285A) のストップ安です 。   

前日13日に発表した第2四半期(4-9月)連結決算が低調でした 。 純利益が前年同期比$66.5%減の589億円[29]だったことが嫌気されたのです。特に第2四半期(7−9月)の利益は、市場予想を14%$ほど下回りました 。 これが半導体セクター全体のセンチメントを、さらに冷え込ませる結果となりました。   

11月14日 日経平均905円安の要因分析

項目詳細
日経平均 変動-905.30円 (−1.77%)
下落の主因前日の米ハイテク株安(Nasdaq急落)とFRB利下げ期待の後退
主要な下落セクターAI・半導体関連銘柄
マイナス寄与度 分析上位5銘柄(アドバンテスト、東エレク、ソフトバンクG等)だけで
約876円 の押し下げ効果(全体の97%)
個別銘柄ハイライトキオクシアHD (285A)
第2四半期決算(純利益$66.5%$減)が嫌気され、ストップ安

3.3. 特別分析:AIバブル論争 – 1990年代ドットコム・バブルとの決定的な違い

今週の急落は、「これはAIバブル崩壊の序章か」という市場の議論を再燃させました 。 シラーPERが1990年代後半のドットコム・バブル期の水準に達した  ことで、この比較は不可避なものとなっています。   

両者の比較において、強気派と弱気派の論拠は明確に分かれています。 この論争こそが、来週のNvidia決算(セクション6.1)を読み解く鍵となります。

論点1:「今回はバブルではない」(強気派の論拠)

強気派は、現在のAIラリーは1990年代のドットコム・バブルとは「根本的に異なる」と主張します 。 その根拠は、企業の「質」にあります。   

① 収益の裏付け 1990年代は「利益なき熱狂」でした。株価だけが先行していたのです。 しかし、現在は「多くの大手企業の業績が株価上昇と密接に連動している」点が異なります 。 FRB議長も「企業は実質的な利益を上げている」と述べ、過去のバブルとは異なるとの見解を示しています 。   

② 健全な財務 1990年代の企業が「負債(デット)」と「将来の需要への希望」を元手に投機的な投資を行いました 。 一方、現在のメガテック企業(大手ハイテク企業)は違います。 「潤沢な営業キャッシュフローと手元資金」を原資にしています 。 そして、「現実の需要に応える形」でAI投資を行っているのです 。   

③ 相対的に割安なバリュエーション 2000年3月のドットコム・バブル最盛期。 MSCI US Tech IndexのP/E(株価収益率)は48.3倍に達していました 。 対照的に、2025年10月末時点では31.7倍です 。 収益の裏付けを考慮すると、当時ほどの過熱感はないと評価されています。   

論点2:「これはバブルである」(弱気派の論拠)

一方、弱気派は、収益面以外の「構造的な歪み」が1990年代と酷似していると警告します。 ファンダメンタルズではなく、システムのリスクを指摘しています。

① 危険な相互依存 バブル崩壊のシナリオとして、AI業界の「集中と伝染」が懸念されています 。 OpenAI, Nvidia, Microsoft, CoreWeaveなど、ごく少数の限られた企業。 彼らが、相互に数十億ドル規模の巨額の取引を結びつけています 。   

この複雑な依存関係は、システミック・リスクを内包しています。 もし1社がAIの約束を果たせなかった場合、2008年の金融危機のような連鎖的な崩壊を引き起こす可能性があるのです 。   

② 曖昧な境界線 最大の懸念は「収益とエクイティ(資本)の境界線が曖昧になっている」ことです 。   

例えば、以下のような複雑な資本・取引関係です 。   

  • NvidiaがAIクラウド企業CoreWeaveに出資している。
  • MicrosoftがCoreWeaveの主要顧客である。
  • 同時に、MicrosoftがOpenAIの大株主である。
  • そして、MicrosoftはNvidiaの収益の約20%を占める大口顧客でもある 。   

これは、誰が真の顧客で誰が投資家なのかが不明瞭だった1990年代の「ケーブル・カウボーイ」時代を彷彿とさせます 。 ゴールドマン・サックスのCEO、デビッド・ソロモン氏も「リターンをもたらさない資本が多く投入されるだろう」と警告しています 。   

ストラテジストの結論

1990年代との比較において、現在のAIセクターは「利益とキャッシュフロー」というファンダメンタルズの点で根本的に健全であることは間違いありません 。   

しかし、特定のメガテック企業間における「資本と収益の複雑な依存関係」  および「完璧を織り込んだバリュエーション」  は、典型的なバブルの症状を示しています。   

今週の急落は、市場が初めてこの「症状」の危険性に気づき、盲目的な楽観論に冷や水を浴びせた「健全な調整」  の始まりであると分析します。   

セクション 4: コモディティ市場の明暗:金(ゴールド)の急落と原油(WTI)の急騰

今週は、マクロ経済の変動がコモディティ市場の二大巨頭である「金」と「原油」に、まったく正反対の影響を与えました。

4.1. 金(ゴールド):典型的「逆・金融相場」への回帰

週前半、金価格は堅調に推移していました。 2つの要因が金を支えていたからです。 1つは、米政府機関閉鎖の先行き不透明感(安全資産需要) 。 もう1つは、FRBの利下げ期待(低金利環境)  です。   

しかし、11月14日(金)、この強気シナリオは完全に崩壊しました 。   

金(ゴールド)急落のメカニズム

セクション2.2で述べたFRB高官のタカ派発言が引き金となりました。 「12月の利下げ期待が後退(waning Fed rate cut bets)」  したことが最大の要因です。   

金先物価格は2.5%急落し、1オンス=4,090ドルとなりました。スポット価格も2%以上下落しました 。   

この急落のメカニズムは、金価格にとって「最悪の組み合わせ」が同時に発生したことにあります。

1. 実質金利の上昇 米10年国債利回りが4.15%に上昇しました 。 金利を一切生まない金(ゴールド)を保有することの「機会費用」が急上昇します。 これにより、金を手放す動きが強まりました 。   

2. ドルの急騰 米ドル指数(DXY)が2.75ヶ月ぶりの高値に上昇しました 。 ドル建てで取引される金は、他通貨の保有者にとって割高となります。 結果として需要が減退しました 。   

今週前半まで、金市場は「FRBの利下げ期待」と「政府閉鎖(不透明感)」という2つの強気材料に支えられていました 。   

しかし、FRBのタカ派転換は「利下げ期待」を打ち消しました 。 そして、政府閉鎖の終結は「不透明感」という安全資産需要の一部を剥奪したのです 。   

14日の急落は、金を支えていた強気材料が「タカ派のFRB」という単一の弱気材料によって完全に制圧された瞬間でした 。   

4.2. 原油(WTI):マクロ経済とは無縁の地政学リスク

株式、金、ビットコインがFRBのタカ派転換というマクロ要因で急落する中、WTI原油先物価格は14日(金)に2%超急騰しました 。 1バレル=$59.95ドルに達したのです 。   

この上昇は、FRBの動向やマクロ経済のセンチメント  とは完全に無関係です。 唯一の要因は「ロシア産原油に対する米国の追加制裁」が間近に迫っていることへの「供給リスク(supply risks)」です 。   

ロシア産原油制裁の詳細

この制裁に関する具体的な情報は以下の通りです 。   

  • 期限: 新たな制裁によるロシア産原油の流れの混乱。 これが11月21日から始まると予想されています 。   
  • 市場の兆候: ロシアの石油大手ルコイル(Lukoil)は、制裁期限を前に動いています。 すでに世界中のトレーディング部門の人員削減を開始していると報じられました 。 これは市場ストレスの初期兆候と見なされています。   
  • 物流の危機: ロシアの海上輸出の最大3分の1が「立ち往生(stranded)」する可能性が報じられています 。 タンカーの滞留や航路変更、荷降ろしの遅延が原因です。   
  • 需要の蒸発(買い手不在): さらに深刻なのは、これまでロシア産原油の最大の買い手であったインドと中国が、ロシア産原油の購入を一時停止したことです 。   

市場の分断

今週の市場では2つの巨大な力が衝突しました。 「マクロ経済(FRBのタカ派転換)」と「地政学(ロシア制裁)」です。

金(ゴールド)は、実質金利が主要な価格決定要因です。 そのため、マクロ経済の力に従い「下落」しました。

一方、原油(WTI)は、需給バランスが価格を決定します。 FRBのタカ派転換がもたらす「将来の景気後退による需要減退懸念」。 これよりも、「ロシアの輸出の3分の1が停止し、さらに印中が購入を停止する」という「即時の供給ショック」の方が、価格への影響が圧倒的に大きい。 市場はそう判断しました 。   

原油価格は、世界的なリスクオフのセンチメントを「無視」しました。 地政学リスク(供給ショック)にのみ反応したのです。 これは、今週のクロスアセット分析における最も重要な「例外」であり、市場の分断を明確に示しています。


セクション 5: ビットコインと暗号資産市場:18億ドルの強制決済と「負の相関」

今週の暗号資産市場は、典型的な暴落となりました。 ファンダメンタルズ(好材料)とテクニカル(需給)が完全に乖離し、後者が前者を圧倒する展開でした。

5.1. 市場のパラドックス:好材料(ETF承認)と価格暴落(1兆ドル消失)のねじれ

今週、暗号資産業界にとって規制上の大きな進展がありました。 米政府機関閉鎖  によってSEC(米国証券取引委員会)の審査が機能不全に陥っていました 。 その中、Bitwise, Grayscale, Canary CapitalといったETF発行体が、ある「回避策」を利用しました 。   

「遅延修正なし(no delaying amendment)」ルール  という「手続き上の回避策(procedural workaround)」  です。   

これにより、SECの積極的な承認プロセスを経ずに、4本の暗号資産ETFの取引が事実上「自動的」に開始されました 。 これにはSolanaやXRPのETFも含まれています 。 これは、機関投資家の参入を促す上で非常にポジティブなニュースです。   

現実の価格(暴落)

しかし、市場はこの歴史的な好材料を完全に無視しました。

10月6日以降、暗号資産市場の時価総額は1兆ドル以上消失したと報じられました 。 今週、ビットコイン価格は急落。 14日(金)の取引では、5月以来の安値となる94,300ドル近辺を付けました 。   

5.2. 暴落の真相:「レバレッジの清算」

なぜETF承認という明確な好材料があっても暴落したのか。 その真相は、ファンダメンタルズの悪化ではありません。 市場内部に蓄積した、過剰なレバレッジ(証拠金取引)の強制決済にあります。

18億ドルの強制決済

11月5日までの数日間。 市場全体で18億ドル(約2,700億円)にのぼるポジションが強制的に清算(liquidated)されたことが確認されています 。 この暴落で、44万1,867人のトレーダーがポジションを失いました 。   

この清算の「質」を分析すると、問題の根幹が明らかになります。 清算された18億ドルのうち、13.8億ドル(実に76%)は「ロング(買い)」ポジションでした 。   

これは、市場参加者の大多数が「ETF承認」などの好材料を背景に、価格上昇に賭けていたことを示します。 しかし、そのポジションを維持するための証拠金が尽き、強制的に売却させられたのです。

アナリストはこれを、市場の過熱感を冷ます「レバレッジの洗い流し(flushing out of leverage)」と表現しています 。   

市場には「前例のないレベルのレバレッジ(unprecedented levels of leverage)」  が蓄積していました。 レバレッジは、上昇局面では利益を増幅させます。 しかし、下落局面では「損失を増幅させ(amplifying moves)」 、強制決済という「売りが売りを呼ぶ」連鎖(リクイデーション・カスケード)を引き起こすのです。   

今週のビットコイン暴落は、ファンダメンタルズ(ETF承認)の敗北ではありません。 テクニカル(過剰レバレッジ)の暴走でした。 18億ドルという巨額の強制売りが市場に溢れたため、ETF承認という好材料は価格に何の影響も与えられなかったのです。

5.3. ストラテジストの視点:ナスダックとの非対称な関係

では、なぜレバレッジの清算が「今週」発生したのでしょうか? その引き金を引いたのは、セクション3.1で述べた、AI・ハイテク株(ナスダック)の急落です。

ナスダックとの「非対称」な相関

現在のビットコインとナスダック(ハイテク株)の相関関係は、非常に「非対称」なものになっています 。 最近の数週間、ビットコインとナスダック100の20日間相関はゼロ近くまで低下していました 。   

しかし、詳細な分析によれば、ビットコインは特異な性質を示しています 。 「ウォール街の楽観(株価上昇)は無視するが、悲観(株価下落)には迅速に反応する」  という性質です。   

今週、この非対称な関係性が暴落のプロセスを完璧に説明しています。

  1. マクロ要因: FRBのタカ派転換が発生(セクション2.2)。
  2. 株式市場: 金利上昇を嫌気し、AI・ハイテク株(ナスダック)が急落(セクション3.1)。
  3. 暗号資産市場: ビットコインが、このナスダックの「悲観」にのみ連動し 、下落を開始。   
  4. テクニカル要因: この最初の下落が、市場に蓄積していた18億ドル  の過剰なロング・レバレッジの「マージンコール(追証)」の引き金を引きました。   
  5. 暴落: 強制決済の連鎖(リクイデーション・カスケード)が発生し、ビットコイン価格は暴落しました 。   

結論として、ビットコイン市場は、マクロ経済(FRB)→米国株(ナスダック)→暗号資産(BTC)という「リスクオフの伝染経路」によって崩壊したことが明確になりました。

セクション 6: 来週(11月17日~21日)の重要イベントと市場展望

今週、市場の前提が大きく覆されたことを受け、来週は2つの重要なイベントが市場の方向性を決定づけます。

6.1. 最大の注目:Nvidia(エヌビディア)の決算発表(11月19日)

今週、「AIバリュエーションへの懐疑論」が市場を直撃しました(セクション3.1)。 来週11月19日(水)に予定されているNvidiaの決算発表  は、この懐疑論が正しかったのか、それとも行き過ぎた悲観だったのかを判断する、AIラリー全体の「試金石(リトマス試験紙)」となります。   

市場の期待 vs. AI懐疑論

  • 市場の期待(ブル派): JefferiesとWedbushのアナリストは、Nvidiaが「ビート&レイズ(市場予想を上回る決算と、将来見通しの上方修正)」を達成すると予想しています 。 Wedbushは、その根拠を明確に示しています 。 「(MicrosoftやGoogleなどの)ハイパースケーラー(大規模クラウド業者)の第3四半期の設備投資(Capex)は予想を上回っており、その支出の多くはNvidiaに向けられている」 。 OppenheimerもNvidiaの目標株価を引き上げ、「AIの勝者として最適」と評価しています 。   
  • 注目すべき指標(コンセンサス予想) : Visible Alphaがまとめたアナリスト予想コンセンサスは以下の通りです 。
    • 売上高: 552.8億ドル(前年同期比+55%超)
    • 調整後EPS(1株当たり利益): 1.26ドル(同+55%超)
    • 最重要指標:データセンター部門売上高: 495.3億ドル(同+61%)

ストラテジストの視点

市場の期待は極めて高いレベルに設定されています。 Nvidiaがこの異常に高いハードルをクリア、あるいは「ビート&レイズ」を達成すれば、今週のAI株安は「一時的な調整」とみなされます 。 そして、年末に向けたラリーが再開する可能性があります。   

しかし、わずかでも期待に応えられなかった場合(特にデータセンター部門の将来ガイダンス)。 その時、市場のAIバブル懸念(セクション3.3の論点2)  が正当化されます。 ハイテク株は一段と深い調整局面に入るリスクがあります。   

6.2. 経済指標のリリースラッシュ

米政府機関閉鎖による「データの霧」  が晴れます。 来週は遅延していた経済指標や、閉鎖の影響を反映した最新の指標が「洪水のように(flood of economic releases)」  発表されます。   

  • FOMC議事要旨(11月19日):  今週のタカ派発言の背景にある、前回の会合での詳細な議論が明らかになります。利下げに対する「五分五分」  の議論の真意が問われます。   
  • 各国Flash PMI(11月21日):  米国、欧州、日本、英国の最新の景況感を示すS&P GlobalのPMIが同日発表されます。閉鎖の影響やインフレの粘着性が焦点となります。   
  • 各国CPI(消費者物価指数):  カナダ(17日) 、英国(19日) 、日本(21日)  でCPIが発表され、世界的なインフレの動向が確認されます。   

来週の主要経済カレンダー(2025年11月17日~21日)

日付国/地域主要経済指標
11月17日(月)日本第3四半期 GDP(速報値)
カナダCPI(消費者物価指数)(10月)
米国NY連銀製造業景気指数(11月)
11月18日(火)豪州RBA(豪中銀)議事要旨
米国鉱工業生産(10月)
米国NAHB住宅市場指数(11月)
11月19日(水)英国CPI(消費者物価指数)(10月)
ユーロ圏CPI(改定値)(10月)
日本機械受注(9月)
米国住宅着工件数(10月)
米国FOMC議事要旨(10月29-30日会合分)
11月20日(木)ドイツPPI(生産者物価指数)(10月)
米国新規失業保険申請件数
米国フィラデルフィア連銀製造業景気指数(11月)
米国中古住宅販売件数(10月)
11月21日(金)日本S&P Global 製造業・サービス業 PMI(速報値)(11月)
ユーロ圏HCOB 製造業・サービス業 PMI(速報値)(11月)
英国S&P Global/CIPS 製造業・サービス業 PMI(速報値)(11月)
米国S&P Global 製造業・サービス業 PMI(速報値)(11月)
英国小売売上高(10月)
日本CPI(消費者物価指数)(10月)

セクション 7: 結論と読者が取るべき次のアクション

今週の市場は、2025年の投資トレンドの大きな転換点を示唆しました。 「FRBの利下げ」と「AIバリュエーション」という2大支柱への盲目的な信頼は終わり、市場は「データの空白」と「タカ派のFRB」という現実に直面しています。

読者が今週末に取るべき最初のアクション:

  1. AI・ハイテク株のポジション確認: 自身が保有するAI・ハイテク関連株(特にNvidia、AMD、ソフトバンクG、東京エレクトロンなど)の取得価格とポートフォリオ全体に占める割合を再確認してください。 来週19日のNvidiaの決算は、期待と懸念が最高潮に達する中での発表となります。 決算が予想を「下回った」場合に、自分のリスク許容度が耐えられるかをシミュレーションしておくことが不可欠です。
  2. レバレッジの確認: 特に暗号資産(ビットコイン)やFX(ドル/円)において、過度なレバレッジをかけていないか確認してください。 今週の18億ドルの強制決済  は、市場の「洗い流し」  が始まったサインです。 FRBの政策が不透明な中での高レバレッジは、最も危険な戦略となります。   
  3. カレンダーの確認: 来週は経済指標が「洪水」のように発表されます 。 特に19日(水)のFOMC議事要旨21日(金)の各国PMIは、市場を大きく動かす可能性があります。 ご自身のカレンダーにこれらのイベントを登録し、ボラティリティ(価格変動)の急上昇に備えてください。   
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この記事を書いた人

真毅のアバター 真毅 自由人

趣味はカメラ、ランニング、読書。職業はシステムエンジニア。昔はリサーチハウスで企業調査、産業分析を行っていました。目標は投資で稼いでゆっくり生きる。資格はFP2級、証券アナリスト。投資対象は日本株、米国ETF、金、暗号資産、不動産。金融資産と実物資産の両輪で資産形成。

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