2024年2月、日経平均株価が史上最高値を更新しました。この驚くべきニュースに、多くの投資家はさらなる株価の上昇を期待していることでしょう。しかし、「投資は怖い」「リスクが大きいからやめておこう」と考える方も少なくありません。そんな方々にこそ、本書はぜひ手に取っていただきたい一冊です。
本書の著者、藤野英人氏は、投資信託「ひふみ」シリーズの最高責任者であり、33年のキャリアを持つファンドマネージャーです。藤野氏は大胆にも「10年後には日経平均が10万円になる」と予測しています。一見すると夢物語のように聞こえるこの予測も、本書を読むことでその現実味を感じ取ることができるでしょう。
その背景には、日本がインフレ経済に突入したことがあります。インフレの時代には、物価が上昇し、株式や不動産の価値も増します。その一方で、現金の価値は下がるため、「資産は現預金だけ」という人々は大きなリスクに直面します。今後の時代、「投資は危険」という固定観念を持ち続けることこそが最大のリスクなのです。
本書では、「日経平均10万円」時代に向けて、今どのように行動すべきかを詳しく解説しています。小手先のテクニックや商品紹介ではなく、投資先を選ぶための本質的な観点に焦点を当てています。投資とは本来、「企業を応援すること」であり、未来を築く企業に資金を投じ、そのリターンとして利益を得るものです。利益追求だけが目的ではなく、投資本来の意義も理解していただける内容となっています。激動の時代に備えた「転ばぬ先の杖」として、本書の一読を強くお勧めします。
著者紹介
著者の藤野英人(ふじの ひでと)は、投資家であり、ひふみシリーズの最高投資責任者です。彼はレオス・キャピタルワークス株式会社の代表取締役社長兼CIOでもあります。
1966年、富山県に生まれた藤野氏は、1990年に早稲田大学法学部を卒業後、野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)に入社しました。その後、1996年からはジャーディン フレミング投信・投資顧問(現:JPモルガン・アセット・マネジメント)に、2000年からはゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントにてファンドマネージャーを務めました。特に中小型株および成長株の運用に豊富な経験を持っています。
2003年、藤野氏は独立し、レオス・キャピタルワークス株式会社を創業しました。投資教育にも力を入れており、東京理科大学の上席特任教授、叡啓大学の客員教授、淑徳大学地域創生学部の客員教授も務めています。
藤野氏の著書には、『ゲコノミクス』、『おいしいニッポン』(以上、日本経済新聞出版)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『プロ投資家の 先の先を読む思考法』(クロスメディア・パブリッシング)などがあります。
要点
- 著名投資家ウォーレン・バフェットの影響:2023年にバフェットが日本を訪れ、商社株を買い増したことが注目された。
- 日本企業の本質的な変化:日本企業は「スチュワードシップ・コード」、「伊藤レポート」、「コーポレートガバナンス・コード」により改革が進んでおり、ROE目標水準の設定が重要視されている。
- 経営者の意識改革:成長志向を持つ経営者が増え、特に味の素のような企業が経営改善と企業価値向上に取り組んでいる。
- デフレからインフレへの転換:労働力不足による給与上昇がインフレを引き起こし、それが株式市場の上昇を意味する。
- 投資文化の変化と新NISAの導入:日本政府が投資信託の長期・積立・分散投資を推奨し、新NISAが導入されたことにより、投資に対する意識が変わりつつある。
「日本株が熱い!」―海外投資家が続々と注目する理由
市場を一変させた「新・3本の矢」!日本株の未来を切り開く
2023年、日本の株式市場は劇的な展開を迎えました。11月にはバブル崩壊後の最高値を更新し、終値は驚異の3万3817円を記録。この快挙の引き金は、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が日本を訪れ、日本の商社株を大幅に買い増すと発表したことです。
しかし、この動きは単なる一過性の現象ではありません。実は、日本企業の本質的な変革が背景にあります。著者は日本株市場が今後も上下しながらも、長期的には右肩上がりに成長し続けると確信しています。
日本企業の変革の始まりは2014年に遡ります。同年、金融庁は「スチュワードシップ・コード」を発表し、経済産業省は「伊藤レポート」、そして2015年には東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を導入しました。これらの改革は、上場企業と株式市場に対する本格的な変革の始まりであり、著者はこれを「新・3本の矢」と呼んでいます。
特に重要な提言として、「伊藤レポート」では「ROE(自己資本利益率)の目標水準8%」を掲げました。これは、会社が株主から預かった資本からどれだけ効率よく純利益を生み出しているかを示す指標で、投資家にとって大きな魅力となる設定です。
金融庁の「スチュワードシップ・コード」は機関投資家に対して投資先企業の経営をモニタリングすることを求め、東証の「コーポレートガバナンス・コード」は上場企業に対して収益力や資本効率の目標提示を要求しました。経済産業省、金融庁、東証の三者によるこれらの取り組みが、後の株価上昇の基盤を築いたのです。
情熱が未来を創る―成長企業の魅力とは?
かつて、日本の経営者は「眠くて退屈」と海外の投資家に評されていました。著者も運用する投資信託「ひふみ」が中小型株や成長株に傾斜していた理由は、大企業に「投資したい」と思える会社がなかったからです。
しかし、今は時代が変わりました。経営にフォーカスし、成長志向を持つトップが増え、長期的な株価上昇が期待できる企業が現れてきています。その一例が味の素です。著者は味の素の経営者との面談で深く感銘を受けました。味の素は「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する」を掲げ、経営改善と企業価値向上に全力で取り組んでいます。
米国の大企業が大きく成長する背景には、純粋な理念があります。テスラやスペースXの創業者イーロン・マスクは、「あるべき未来」を信じ、地球環境や宇宙への挑戦に全力を注いでいます。この無謀ともいえる純粋さが、企業の成長を加速させているのです。
日本の大企業にも、このような純粋さが求められています。味の素のように、アグレッシブで未来志向な日本企業が増えてきており、日本株は「安いのに美味しい」へと変貌を遂げつつあります。
10年後の日経平均10万円を予測!あなたもこの波に乗れる!
日本株の過去と未来―上昇を続ける市場の秘密
10年後、日経平均株価は10万円になっていると著者は本気で思っています。多くの人は今も「日本株市場は長期で低迷が続いている」と思っているようですが、その見方は正しいのでしょうか。
株式投資でよく使われる指標の1つに、PER(株価収益率)があります。これは「1株あたりの純利益に対して、株価が何倍になっているか」を示す指標で、「その企業の利益から考えて、株価が割安か割高か」を判断するために使われます。
米国ではPERがおおむね15~20倍前後で推移しています。つまり15~20年分の利益を織り込んで株価が形成されているのです。日本ではバブル期のPERが非常に高く70倍を超えたこともありましたが、これは異常値と考えていいでしょう。その後は株式市場のグローバル化が進んだ結果、2000年頃から米国とほぼ同じ水準に収斂しています。
仮に株式市場のグローバル化以前のPERを20倍(正常な水準)に修正すると、1989年のピーク時でも、日経平均株価は2万円前後だったことがわかります。当時つけた4万円近い高値は、実際の企業収益の裏付けを持たない意味のない数字だったのです。つまり、日本株式市場は上下しつつ、長期的に見るとおおむね右肩上がりに上昇してきたのです。
デフレからインフレへ!日本経済の大転換
日本は今、デフレからインフレに転換しつつあります。インフレを加速させる要因のひとつは深刻な人手不足です。労働力不足を改善するため、競争力のある企業は待遇改善を進めるでしょう。「給与を引き上げられる会社が生き残る」という状況が全体的な給与上昇を引き起こし、労働力不足がインフレを引き起こす要因となるのです。
インフレの継続は株式市場の上昇を意味します。そのため、10年後に日経平均株価が今の3倍程の10万円になるというのもおかしな話ではありません。
「日経平均株価10万円」が実現するには、インフレの進展のほか、大企業の変化と新興企業の台頭が必要です。インフレ時代は「持つ経営」がプラスに働くため、大企業にとって有利な環境となるでしょう。
さらに日本政府のスタートアップ支援も経済の成長率を押し上げる要因となります。10年後には日本を牽引するスタートアップが数多く現れることが期待されます。
インフレは株式や不動産が値上がりをもたらすため、現預金の価値は目減りします。「資産はあるけど現預金だけ」という人は、大きなダメージを受けることになるでしょう。
「投資は悪」からの脱却―賢い投資で未来を輝かせる方法
日本では「投資は悪」という考えが根強く残っています。5000人以上を対象に行った「資産運用・資産形成に関するイメージ」の調査では、「勉強が必要」「リスクが高い」「損をする・怖い」といったネガティブな回答が多く見受けられました。
日本の「家計の金融資産構成」における投資商品(株式や投資信託等)の割合はわずか15%程度で、現金・預金が55%を占めています。一方、アメリカでは投資商品が50%を超えており、その結果、過去20年の家計の金融資産はアメリカでは3.4倍に増加し、そのうち2.6倍は投資商品による運用リターンによるものでした。対して日本はわずか1.4倍の増加にとどまっています。
株式投資は利益をもたらしますが、そのリターンはお金だけではありません。著者が投資家として最も大事にしているのは、「世の中をよくして明るい未来をつくること」です。成長している会社や、利益を上げ続けている会社とは、結局のところ「真面目な会社」なのです。
資本主義社会において、ステークホルダーから正しい方法で信用を得なければ、長期的に利益を上げ続けることはできません。お客様や従業員を大事にし、社会に貢献しようとする「真面目な会社」に投資することが、世の中をよくし「明るい未来」というリターンを得るのです。これが、著者の考える株式投資の社会的意義です。
生成AIが変える資産運用の未来
「投資の新時代」へ
2024年にスタートした「新NISA」は、従来の制度に比べて大幅にパワーアップしました。NISAは「少額投資非課税制度」の愛称で、「少額投資の運用益にかかる税金を非課税にする」というものです。本来、株式や投資信託などで得られる運用益には約20%の税金がかかりますが、NISAを使うと税金は課されません。
これまでのNISAは非課税保有期間の上限がありましたが、新NISAは「若年期から高齢期まで継続的な資産形成を行えるようにする」という考えのもと、非課税保有期限が無期限となりました。投資上限額も大きく増え、これまでの不便さや不十分さが解消されました。これまでは「投資をするなら自己責任で」と言われていた時代でしたが、これからは「投資をするかしないかは自己責任」という新時代に突入したのです。
特に国が後押ししているのが、投資信託の「長期・積立・分散投資」による資産形成です。新NISAの「つみたて投資枠」は金融庁の定める条件を満たした「長期・積立・分散投資に適した投資信託」に対象商品が限定されています。
「つみたて」は買付価格を平準化するため、「高値のときに一気に投資してしまった」という失敗が起きにくいのです。著者自身、「小さく、ゆっくり、長く」の3原則を、これから投資を始める人に勧めています。
「よりよい未来」をつくるために投資する
投資信託には「インデックス」と「アクティブ」の2種類があります。インデックスファンドは日経平均株価などの指数に連動するよう機械的に運用するため、コストを抑えやすいという利点があります。
一方のアクティブファンドは、ファンドマネージャーが銘柄を選別して指数を上回ることを目指して運用します。そのため手数料は高くなりますが、「よい会社を選んで投資したい」という考えを持つ人々の思いに応えられるのです。
近年、インデックス人気が高まり「インデックス至上主義」とも言える状況が続いています。しかし、著者は資本市場をしっかり機能させるためには、アクティブファンドの役割が大きいと考えています。
急速に普及する生成AIの存在が、アクティブファンドにどのような影響を及ぼすのかについても考える必要があります。これまではアナリストが企業のデータや情報を集めて分析し、「1株あたりの利益が半年から1年後にいくらになるか」を予測していました。
しかし、情報の収集や分析、的確な予測は、生成AIが最も得意とする分野です。少なくとも短期的な予測で勝負する株式投資において、生成AIが人間に取って代わる場面は増えるでしょう。今後、個人投資家が短期投資で勝つことはかなり難しくなってくるはずです。
では、人間が投資でAIに勝つにはどうしたらいいでしょうか。その1つの方法は、「10年後の未来」を予測し、「よりよい未来」の創造につながる企業に投資することです。
そもそも投資とは企業を応援することです。「本来の投資の意義」を意識し、「あるべき未来」を実現させるという視点で投資先を選択することが、アクティブファンドの存在意義なのです。
この本を読んで、未来を切り開く投資の指針を見つけよう!
要約では「日経平均10万円」時代という未来予想とその背景、そして投資の必要性を中心に構成しましたが、本書の後半では著者が推す「10年後の成長銘柄」も紹介されています。
その中の一つとして挙げられているのが、東京証券取引所などを運営する日本取引所グループです。
2023年に東証の社長に就任した岩永守幸さんは、「東証上場企業の企業価値を継続的に上昇させること」を自身のミッションとしています。
上場企業の企業価値が上がれば日本全体の資産が増えるという理念のもと、岩永氏の「日本をよくする」という情熱に、著者は投資対象として大きな魅力を感じています。
この他にも多くの有望な銘柄が紹介されています。ぜひ本書を一読し、日本の未来を担う成長企業の可能性を感じていただきたいと思います。
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