あなたの「やる気が出ない」には、ちゃんと理由があります
「なんだか最近、仕事へのやる気が出ない…」 「若い頃のような情熱が、どこかへ消えてしまったみたいだ」
50代を迎え、ふとそんな風に感じていませんか。朝起きるのがつらく、会社に向かう足取りが重い。これまで楽しめていた仕事に、集中できなくなっている。もしあなたがそう感じていても、決して自分を責めないでください。それは、あなたの「気合い」が足りないからではありません。
実は、50代以上のビジネスパーソンの95%以上が、以前より仕事へのモチベーションが下がっていると感じている、という調査結果もあります 。多くの人が、あなたと同じように感じているのです。その原因は、年齢とともに訪れる体の自然な変化にあります。
この記事では、なぜ50代になると「やる気スイッチ」が入りにくくなるのか、その科学的な理由をわかりやすく解説します。そして、最も大切なこととして、その状況を「食事の力」で変えていくための、具体的で簡単な方法をご紹介します。
難しい栄養学の話はしません。明日から、いえ、今日からすぐに始められる小さなヒントが満載です。食事は、私たちの一番身近なエネルギー源であり、心と体を整える最高のツールです。この記事を読み終える頃には、あなたの食卓が「やる気」を生み出す場所に変わっているかもしれません。さあ、一緒に元気を取り戻す旅を始めましょう。

なぜ?50代で「やる気スイッチ」が入りにくくなる4つの理由
やる気が出ないのには、目に見えない体の内側での変化が関係しています。ここでは、その主な4つの理由をみていきましょう。これらを知ることで、対策がぐっと立てやすくなります。
1-1. 「幸せホルモン」が不足していませんか?
私たちの心に安らぎや幸福感をもたらし、精神を安定させてくれる「セロトニン」という物質があります。このセロトニンは、意欲や集中力を支えるため、「幸せホルモン」や「やる気ホルモン」とも呼ばれています 。
50代になると、長年のストレスや加齢などの影響で、このセロトニンの分泌量が減少しやすくなります 。セロトニンが不足すると、気力が落ち込んだり、意欲が低下したりするのです。
「最近やる気が出ない」と感じたら、それはセロトニン不足のサインかもしれません 。そして、この大切なセロトニンの材料となるのは、私たちが毎日口にする食べ物なのです 。
1-2. 食後の「急な眠気」、実はやる気泥棒だった
昼食を食べた後、急に強い眠気に襲われて、仕事が手につかなくなることはありませんか。実は、これもやる気を奪う大きな原因の一つです。
パンや白米、麺類といった糖質の多い食事を摂ると、血糖値が急激に上昇します。すると、体は血糖値を下げようと「インスリン」というホルモンを大量に分泌します。その結果、今度は血糖値が急降下してしまい、強い眠気やだるさ、集中力の低下を引き起こすのです 。
この血糖値の乱高下は「血糖値スパイク」と呼ばれ、やる気を奪う「隠れた泥棒」のような存在です。特に、朝食を抜いたり、早食いをしたり、丼ものや麺類だけで食事を済ませたりする習慣は、血糖値スパイクを招きやすいため注意が必要です 。
1-3. 男女で違う「ホルモンの曲がり角」
50代は、男女ともにホルモンバランスが大きく変化する「曲がり角」の時期です。この変化も、やる気の低下に深く関わっています。
- 女性の場合 閉経前後の更年期には、女性ホルモン「エストロゲン」が急激に減少します。エストロゲンは心と体の調子を整える働きがあるため、その減少によって、気分の落ち込み、だるさ、ほてり、不安感など、さまざまな不調が現れやすくなります 。やる気が起きないのも、代表的な症状の一つです。
- 男性の場合 男性にも更年期があります。男性ホルモン「テストステロン」が加齢とともにゆるやかに減少することで、性欲の減退だけでなく、うつ傾向、集中力の低下、そして何事にもやる気が出ないといった症状が現れることがあります 。これは「LOH症候群」とも呼ばれ、働き盛りの男性を悩ませる原因となっています。
1-4. 知らないうちに「体のサビ」と「栄養不足」が進んでいるかも
50代は仕事の責任が重くなったり、親の介護が始まったりと、ストレスが多い年代でもあります 。この慢性的なストレスが、知らず知らずのうちに体にダメージを与えています。
- 体のサビ(酸化ストレス) 強いストレスを受け続けると、体の中では「活性酸素」という物質が過剰に発生します。これは体を内側からサビつかせるようなもので、「酸化」と呼ばれます 。体の細胞がサビつくと、老化が早まり、慢性的な疲労感や不調につながります。
- エネルギー不足を招く栄養不足 さらに、やる気を出すために不可欠な特定の栄養素が不足している可能性もあります。
- ビタミンB群: 私たちが食べたものをエネルギーに変えるための、いわば「着火剤」のような栄養素です。ビタミンB群が不足すると、せっかく食事をしてもエネルギーが作れず、疲れやすさやイライラ、集中力低下の原因になります 。
- 鉄分: 全身に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。血液検査の数値は正常でも、体内に貯蔵されている鉄分(フェリチン)が少ない「隠れ貧血」の状態だと、脳が酸欠気味になり、強いだるさややる気の低下を引き起こすことがあります 。
これら4つの原因は、それぞれが独立しているわけではありません。ストレスで体がサビつき、栄養が消耗されると、ホルモンバランスが乱れ、セロトニンの生成も滞ります。
そして、疲れてやる気が出ないからと、手軽な糖質中心の食事に頼ると、血糖値スパイクでさらにエネルギーを消耗する…という悪循環に陥ってしまうのです。しかし、この悪循環は断ち切ることができます。その鍵こそが、次の章でご紹介する「食事の基本ルール」なのです。

今日から実践!やる気を引き出す「食事の5つの基本ルール」
体の仕組みがわかったら、次はいよいよ実践です。ここでは、やる気を引き出すための「食事の5つの基本ルール」をご紹介します。どれも簡単なことばかりなので、ぜひ今日から取り入れてみてください。
2-1. ルール①:「幸せホルモン」の材料を毎食プラスする
やる気の源である「セロトニン」は、食事から摂る栄養素を材料にして体内で作られます。そのために必要なのが、「トリプトファン」「ビタミンB6」「炭水化物」の3点セットです。
セロトニンの主な材料は、「トリプトファン」という必須アミノ酸です 。これは体内で作ることができないため、必ず食事から摂る必要があります。そして、トリプトファンからセロトニンを合成する際には、補酵素として「ビタミンB6」が不可欠です 。さらに、脳にトリプトファンを運ぶためには「炭水化物」の助けが必要になります 。
この3つをバランスよく摂ることが、セロトニンを効率よく増やす鍵です。
- トリプトファンが豊富な食品
- 肉類(特に赤身肉)
- 魚類(マグロ、カツオなど)
- 大豆製品(豆腐、納豆、味噌、豆乳)
- 乳製品(チーズ、牛乳、ヨーグルト)
- 卵
- バナナ
- ナッツ類
- ビタミンB6が豊富な食品
- 魚類(マグロ、カツオ、鮭、サバ)
- 肉類(レバー、鶏むね肉)
- バナナ
- にんにく
- 納豆
- おすすめの炭水化物
- 玄米、雑穀米、そば
例えば、「納豆ごはんに卵をプラスする」「お味噌汁に豆腐を入れる」といった簡単な工夫で、この3点セットを揃えることができます。

2-2. ルール②:食べる順番を「野菜から」に変えるだけ
やる気泥棒である「血糖値スパイク」を防ぐ最も簡単な方法、それは「食べる順番」を変えることです。
食事の最初に、食物繊維が豊富な野菜やきのこ類、海藻類を食べる「ベジタブルファースト(ベジファースト)」を心がけましょう 。食物繊維は、後から入ってくる糖質の吸収を穏やかにし、血糖値の急上昇を抑えてくれます。
まずはお味噌汁やスープの具、サラダ、和え物などから箸をつけ、よく噛んで食べる。それだけで、食後の眠気やだるさが大きく改善されるはずです。
また、主食を選ぶ際には、白米や食パン、うどんといった精製された「白い炭水化物」よりも、玄米やライ麦パン、そばといった「茶色い炭水化物」を選ぶのがおすすめです 。これらは食物繊維が豊富で、血糖値の上昇がより緩やかになります。

2-3. ルール③:性別ごとの「応援食材」を味方につける
ホルモンの変化に対応するため、性別に合わせた「応援食材」を積極的に摂ることも効果的です。
- 女性におすすめ:大豆製品 女性ホルモン「エストロゲン」と似た働きをする「大豆イソフラボン」を味方につけましょう 。豆腐、納豆、豆乳、味噌、きな粉などを毎日の食事に少しずつ取り入れることで、ホルモンバランスの乱れによる不調を和らげる助けになります 。
- 男性におすすめ:亜鉛・ビタミンD 男性ホルモン「テストステロン」の維持をサポートする栄養素を意識しましょう。
- 亜鉛: テストステロンの合成に不可欠なミネラルです。牡蠣や赤身肉、レバーに多く含まれます 。
- ビタミンD: テストステロンのレベルと関係があることが知られています。きのこ類や魚類に豊富です 。
- 良質なコレステロール: ホルモンの原料となります。卵や肉、魚から適度に摂取することが大切です 。

2-4. ルール④:疲れにくい体を作る「ビタミン・ミネラル」を意識する
体のサビを防ぎ、エネルギーを効率よく生み出すためには、特定のビタミンやミネラルが欠かせません。以下の表を参考に、日々の食事で意識してみてください。
| 栄養素 | 主な働き (やる気への貢献) | 多く含まれる食品の例 |
| ビタミンB群 | エネルギーを作り出すエンジンのような役割。不足するとガス欠状態になります。 | 豚肉、うなぎ、レバー、玄米、カツオ |
| 鉄分 | 全身に酸素を届ける運搬役。脳の酸欠を防ぎ、だるさや集中力低下を改善します。 | レバー、赤身肉、ほうれん草、あさり、カツオ |
| オメガ3脂肪酸 | 脳細胞を柔らかくし、情報の流れをスムーズに。思考をクリアにします。 | サバ、イワシ、アジなどの青魚、アマニ油 |
| 抗酸化ビタミン (A,C,E) | 体のサビ(酸化)を防ぎ、細胞レベルでの老化や疲れをブロックします。 | 緑黄色野菜(パプリカ、ブロッコリー)、果物、ナッツ類 |
特に、サバやイワシなどの青魚に含まれるオメガ3脂肪酸は、脳の機能をサポートする重要な栄養素です。週に数回、食卓に取り入れることを目指しましょう。

2-5. ルール⑤:やる気を削ぐ「NG食習慣」を見直す
最後に、やる気を奪ってしまう可能性のある食習慣を少しだけ見直してみましょう。「やめる」というよりは、「良いものに置き換える」という意識が大切です。
- 加工食品・甘いお菓子やジュース これらは血糖値スパイクを招きやすいだけでなく、消化・代謝の過程で貴重なビタミンB群を大量に消費してしまいます 。食べれば食べるほど、体がエネルギー不足になってしまうのです。午後の間食を、お菓子からナッツや果物に変えるだけでも大きな変化です。
- 過度なアルコール アルコールを分解するために、肝臓はフル稼働します。この時にもエネルギーとビタミンB群が使われるため、飲み過ぎた翌日は二日酔いの症状がなくても、だるさや疲労感を感じやすくなります 。休肝日を設けたり、飲む量を少し減らしたりすることを意識してみましょう。

忙しい毎日でも大丈夫!簡単「やる気アップ」レシピ&コンビニ活用術
「ルールはわかったけれど、毎日実践するのは大変そう…」と感じるかもしれません。ご安心ください。ここでは、忙しいあなたでも無理なく続けられる、具体的な食事プランや簡単レシピ、そしてコンビニの活用術をご紹介します。
3-1. モデル献立:専門家が考える「ある1日の食事プラン」
5つのルールをすべて盛り込んだ、理想的な1日の食事例です。これを参考に、ご自身の食生活を組み立ててみてください。
- 朝食:元気な1日をスタートする「黄金の組み合わせ」
- メニュー: 納豆ごはん、わかめと豆腐の味噌汁、鮭の塩焼き一切れ
- ポイント: ごはんで「炭水化物」、納豆・卵・豆腐・鮭で「トリプトファン」と「ビタミンB6」をしっかり補給 。幸せホルモンの材料を朝に摂ることで、日中の精神的な安定につながります。青魚である鮭のオメガ3脂肪酸もプラス 。
- 昼食:午後の眠気を防ぐ「エネルギー持続ランチ」
- メニュー: 玄米ごはん、豚肉の生姜焼き(玉ねぎたっぷり)、ほうれん草のおひたし
- ポイント: 豚肉でエネルギー代謝を助ける「ビタミンB1」をチャージ 。主食を玄米にすることで、血糖値の上昇を緩やかにします。ほうれん草で不足しがちな「鉄分」も補給しましょう。
- 夕食:心と体をリセットする「いたわりディナー」
- メニュー: 鶏むね肉ときのこの豆乳スープ、アボカドとマグロのサラダ
- ポイント: 消化に良い鶏むね肉とマグロで良質な「タンパク質」を摂ります 。豆乳スープは女性に嬉しい「イソフラボン」が豊富 。きのこで「ビタミンD」、アボカドで「ビタミンE」と良質な脂質を補い、1日の疲れを癒します。
3-2. 5分で完成!超簡単「やる気チャージ」レシピ
時間がない時でも、パッと作れる簡単レシピです。
- 朝におすすめ:バナナと豆乳のきな粉スムージー バナナ、豆乳、きな粉をミキサーにかけるだけ。トリプトファン、ビタミンB6、イソフラボンが一度に摂れる、忙しい朝の救世主です 。
- もう一品に:マグロの山かけ 角切りにしたマグロの刺身に、すりおろした山芋をかけるだけ。マグロのトリプトファンと、男性の活力をサポートする山芋を手軽に摂れます 。
- 作り置きに:パプリカのマリネ 細切りにしたパプリカをオリーブオイルとビネガー、塩で和えるだけ。体のサビを防ぐ抗酸化ビタミンが豊富で、冷蔵庫に常備しておくと便利です 。
- おやつに:だし風味のミックスナッツ 無塩のミックスナッツをフライパンで軽く炒り、火を止めてから粉末だしを振りかけて混ぜるだけ。トリプトファンやビタミンE、マグネシウムが摂れるヘルシーなおやつになります 。

3-3. コンビニでも賢く選ぶ!おすすめの組み合わせ
外食や中食が多くなりがちな方も、選び方次第で栄養バランスは整えられます。コンビニで選ぶなら、こんな組み合わせがおすすめです。
- 組み合わせ①:おにぎり+豚汁+ゆで卵 具材は鮭やたらこなど、タンパク質が摂れるものを選びましょう 。野菜がたっぷり入った豚汁は、ビタミンB1と食物繊維を補給できます。ゆで卵をプラスすれば、トリプトファンもばっちりです 。
- 組み合わせ②:もち麦ごはん+サラダチキン+野菜スティック もち麦ごはんで食物繊維を確保し、血糖値の急上昇を抑えます 。高タンパク・低脂質のサラダチキンと、ビタミンが摂れる野菜スティックを組み合わせれば、ヘルシーで満足感のあるランチになります。
- 組み合わせ③:幕の内弁当+ヨーグルトドリンク 単品の丼ものや麺類ではなく、焼き魚や煮物など、おかずの種類が豊富な幕の内弁当を選びましょう 。揚げ物はなるべく避けるのがポイントです。食後にヨーグルトドリンクを加えれば、腸内環境を整える助けにもなります 。

小さな一歩が、未来のあなたを変える
ここまで、50代のやる気が出ない原因と、食事による改善策についてお話ししてきました。
もう一度、大切なことをお伝えします。今あなたが感じている意欲の低下は、決して気持ちの問題だけではありません。セロトニンの不足、血糖値の乱高下、ホルモンバランスの変化、そして栄養不足といった、体の中で起きている科学的な現象が原因なのです。
そして、その現象には「食事」という、最も身近でパワフルなアプローチが有効です。
すべてを一度に変える必要はありません。完璧を目指さなくても大丈夫です。まずは、たった一つ、できそうなことから始めてみませんか。
「明日から朝食にバナナを1本加えてみよう」 「いつものラーメンを、野菜炒め定食に変えてみよう」 「おやつのチョコレートを、ナッツにしてみよう」
そんな小さな一歩で構いません。その一歩が、あなたの体の中で良い変化を生み出し始めます。食事が変われば、体が変わる。体が変われば、心が変わる。そして、仕事への向き合い方や、日々の暮らしの質も、きっと変わっていくはずです。
食事を見直すことは、単に仕事のパフォーマンスを上げるためだけではありません。それは、これからの人生をより健やかに、より自分らしく楽しむための、あなた自身への最高の投資です。今日の小さな選択が、10年後、20年後のあなたの笑顔を作ります。さあ、今日から新しい食習慣を、楽しみながら始めてみましょう。

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