利回り38%の裏側――AIPIの19a-1通知に「元本100%」と書かれていた話

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2026年8月初旬の船橋に、今年最初の蝉時雨が降っています。朝から気温は30度を超え、天沼弁天池公園の木陰も逃げ場になりません。それでも池の水面を渡る風だけは、ほんの一瞬涼しいのです。汗を拭きながら、私は毎週届く「ある入金」のことを考えていました。

申し遅れました。私は証券アナリスト(CMA)とFP資格を持つ兼業ブロガーです。超高配当カバードコールETFを、1年間自腹で人体実験しています。

実験銘柄のひとつがAIPI(AI関連株を対象とする個別株カバードコールETF)です。2026年5月末から分配が週次になり、私の4株にも毎週入金が届くようになりました。金額は税引後で0.73ドル前後、日本円にして118円ほどです。

ところが運用会社の19a-1通知(分配金の内訳を株主に知らせる法定書面)を確認して、手が止まりました。2026年6月に支払われた分配金は、その100%が「元本の払い戻し」と記載されていたのです。毎週のチャリン音の正体は何なのか。確認できた事実と向き合い方を、命懸けの講義でお届けします。

目次

毎週チャリンの正体――AIPIとは何者か

毎週チャリンの正体――AIPIとは何者か

AIPIの正式名称は「REX AI Equity Premium Income ETF」です。オプション戦略に強い米国REX Sharesが手掛け、2024年6月にナスダックへ上場しました。経費率は0.65%、純資産総額は約4.2億ドルです(2026年7月16日時点・筆者確認)。

投資対象は「BITA AI Leaders Select Index」という専用指数の構成銘柄です。米国上場のAI関連企業25銘柄で構成され、2つの階層に分かれています。売買代金上位の「純粋AIリーダー」5銘柄が全体の40%を占めます。

残る60%は、時価総額上位の「エコシステム企業」20銘柄へ均等配分されます。比率は毎月調整され、銘柄の入れ替えは四半期ごとに行われる設計です(BITA公式メソドロジーおよびREX開示資料より・2026年7月17日確認)。

そしてAIPIの心臓部が、カバードコール戦略です。カバードコールとは、株式を保有したままコールオプションを売る手法です。コールオプションとは、株を決まった価格で買える権利を指します。権利を売った対価として受け取る現金が、プレミアム(オプション売却収入)です。受け取ったプレミアムが、あの高額な分配金の主な原資になります。

AIPIの特徴は、指数ではなく個別株ごとにコールを売る点にあります。保有する25銘柄それぞれに、満期30日以内の短期コールを売り建てます。個別のAI株は値動きが激しく、オプションの値段も高くつきます。指数オプションを売る一般的な商品より、肉厚なプレミアムが狙えるのです。

実測38.8%――分配金の推移と「週次化」の真相

実測38.8%――分配金の推移と「週次化」の真相

まず実績の数字を確認しましょう。以下は2026年に入ってからの分配金の推移です(1口あたり・筆者が2026年7月17日にyfinanceで照合した実績値)。

権利落ち日分配金(ドル)頻度
2026年1月28日1.162月次
2026年2月25日1.038月次
2026年3月25日1.023月次
2026年4月22日1.052月次(最終)
2026年5月27日0.259週次(初回)
2026年6月4回合計1.011週次
2026年7月(15日まで3回)0.741週次

運用会社のREX Sharesは2026年5月20日、分配方針の変更を発表しました。AIPIと姉妹ファンドFEPI・CEPIの分配を、月次から週次へ移行する内容です。適用は5月28日の支払分からでした。月1.0ドル前後だった分配が、週0.24〜0.26ドル程度に細分化されています。頻度が変わっただけで、年間の水準はおおむね維持されています。

直近12ヶ月の分配合計は13.75ドルでした。2026年7月16日の終値35.45ドルで割ると、実績利回りは38.8%になります。定期預金の金利が恋しくなる数字ですよね(白目)。私の4株では、直近の入金が週0.73ドル、約118円でした。毎週水曜前後に、缶コーヒー1本分が着弾する生活です。

なぜ株価は上がらないのか――上値を売り渡す構造

なぜ株価は上がらないのか――上値を売り渡す構造

利回り38.8%と聞くと、資産が爆発的に増える姿を想像しますよね。現実は逆でした。この1年でAIPIの株価は18.8%下落しています(2025年7月→2026年7月・筆者実測)。分配金を足し戻しても、トータルの増え方は約14.3%です。同じ期間、ナスダック100連動のQQQは約26.3%伸びています。

利回りとリターンの差は運の悪さではなく、構造から生まれる必然です。コールを売るという行為は、株価上昇の権利を先に売り渡すことです。売った権利行使価格を超えた上昇分は、すべて買い手のものになります。

一方で株価が下落するとき、プレミアム分しかクッションはありません。上値には天井があり、下値は底が抜けている。左右非対称な損益構造なのです。

しかもAIPIは、現在値に近い権利行使価格でコールを売る傾向があります。姉妹ファンドのFEPI(FANG系の個別株カバードコールETF)より攻めた設計です。

プレミアム収入は増えますが、上値の余地はさらに狭くなります。AI株の急騰局面では、隣のQQQ保有者だけが笑う展開になりがちです。指をくわえて見ている間も、分配金だけは毎週届くのですが(遠い目)。

当ブログで以前解説した「カバードコールETFはなぜ上がらないのか」という論点が、AIPIでは最も極端な形で現れています。高い利回りは、成長の対価として支払われているのです。

中身は生き物――SMCIの転落とALABの台頭

中身は生き物――SMCIの転落とALABの台頭

AIPIの中身は固定ではなく、指数のルールに従って新陳代謝します。運用開始からの2年間で、顔ぶれは大きく変わりました。

REX Sharesの保有銘柄開示を時点比較した調査(2024年11月末→2026年6月末)を見てみましょう。エヌビディア(NVDA)、クラウドストライク(CRWD)、パランティア(PLTR)といった主力は、一貫して上位を維持しています。

一方で2024年末に約3.4%を占めていたスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は様変わりしました。会計問題を巡る混乱と株価の乱高下を経て、比率は2%未満まで削減されています。

入れ替わるように台頭したのが、AIデータセンターの接続半導体を手掛けるアステラ・ラボ(ALAB)です。2026年半ばには7〜8%前後の主力級に浮上したと報告されています。

ルールベースの指数には、問題を抱えた銘柄を機械的に縮小する自浄作用があります。自浄作用そのものは素直に評価できます。ただし忘れてはいけないのは、25銘柄すべてがAIという単一テーマに賭けている事実です。

分散しているように見えて、AI相場が崩れれば全員が同じ方向に倒れます。テーマ集中の一点賭けである自覚は、保有者に必須です。

19a-1の衝撃――分配金の中身は「元本」でした

19a-1の衝撃――分配金の中身は「元本」でした

ここからが本記事の核心です。米国のファンドは分配金の「中身」を、19a-1通知という書面で開示します。分配金が利益から出たのか、元本の払い戻し(ROC:Return of Capital)なのかの内訳です。

私はAIPIの2026年6月分の19a-1通知を確認しました(2026年7月17日・REX Shares公式サイト掲載のPDF)。結果は衝撃でした。

6月に支払われた週次分配4回は、いずれも推定100%がROC、つまり元本の払い戻しと記載されていたのです。利益からの分配は0%でした。

ROC自体は、直ちに「悪」ではありません。オプションプレミアムは会計上、保有株の含み損と相殺されてROC扱いになることがあります。米国では課税を将来へ繰り延べる仕組みとして、肯定的に語られる面すらあります。

それでも、投資家が自分のお金を「分配金」の名前で受け取っている状態は事実です。日本の感覚で言えば、いわゆるタコ足配当に近い姿です。

そして元本を配り続ければ、基準価額は構造的に目減りします。株価が1年で18.8%下がった一因は、ここにあります。米国のアナリストからは、AI相場が深く崩れた場合の警告も出ています。

基準価額が戻らないまま、分配の原資も細っていく悪循環です。35%超の利回りは市場の下落局面では持続不可能だ、という指摘もあります(Seeking Alpha掲載の分析・2026年時点)。

特定口座の落とし穴――「非課税」どころか申告義務のリスクも

特定口座の落とし穴――「非課税」どころか申告義務のリスクも

ROCには、日本の投資家だけが直面する実務問題があります。米国でのROCは、日本の税務では「資本の払い戻し」に当たり得ます。この場合、特定口座では取得単価の修正と「みなし譲渡」の計算が必要です。1株も売っていないのに、譲渡益課税の計算が発生し得るのです。

さらに厄介な点があります。外国ETFのROCについて、国内証券会社の特定口座システムの対応は万全とは言えません。対応外の処理が発生した場合、その取引が特定口座の計算から除外される可能性があります。

そうなると、投資家自身が19a-1通知や年間取引報告書を読み解き、自力で確定申告する義務が生じ得ます。放置すれば無申告のリスクを負うことになります。

なお私の口座では、2026年7月時点の週次分配は通常の配当と同じ扱いで着弾しています。税引前0.99ドル相当に対して受取が0.73ドルですから、外国税と国内税で約26%が源泉徴収された計算です。

ROCとしての取得単価修正が今後どう反映されるかは、年間取引報告書で確認するつもりです。証券会社によって対応が異なり得る領域なので、保有中の方はご自身の口座での扱いを必ず確認してください。

取得単価が下がり続けるということは、将来の売却時に帳簿上の譲渡益が膨らむことも意味します。受け取るときに軽く見えた税金を、出口でまとめて支払う構図です。「今の手取り」と「出口の税金」をセットで考える必要があります。

対処法――それでも持つなら「サテライト」と決めること

対処法――それでも持つなら「サテライト」と決めること

ここまでの事実を踏まえて、実務的な対処法を整理します。

  • 19a-1通知を自分で確認する:REX Shares公式サイトの資料ページで毎月公開されます。分配金のROC比率を見る習慣をつけてください。
  • 保有はサテライト枠に限定する:資産形成の主役(コア)はインデックス等に任せ、AIPIは金額上限を決めた実験枠にとどめる考え方です。私の4株も、失っても実験費用と割り切れる規模にしています。
  • 「分配金=収益」と思い込まない:家計簿上は、分配金の一部を元本の取り崩しとして扱うのが実態に合います。
  • AIの上昇を信じるなら現物型を選ぶ:値上がり益を最大限取りたい人には、上値を売らないQQQ等の現物インデックスが素直です。
  • 確定申告の可能性を織り込む:特定口座でも申告が必要になり得る前提で、19a-1と年間取引報告書を保管してください。

私自身の結論は「4株のまま、買い増しせず観察継続」です。毎週の入金は正直うれしいのです。が、その入金の中身が元本だと知った以上、規模を広げる理由がありません。人柱としてデータを取り続けることに、この実験の価値があると考えています。

結論――蝉の声と、毎週の118円

結論――蝉の声と、毎週の118円

朝の蝉時雨は、正午を過ぎても止みませんでした。蝉は地上に出てからの短い夏を、全力で鳴き切るそうです。毎週118円を配り続けるAIPIの姿が、少しだけ重なって見えました。派手に鳴いている間に、幹の内側が細っていないか。それを確かめるのが19a-1通知です。

断言します。利回り38.8%は、リターンの約束ではなく構造の説明です。上値を売り、元本を配り、その代わりに毎週の現金を生む機械。正体を知って使うなら道具ですが、知らずに抱えれば罠になります。数字の派手さに目を奪われる前に、一緒に書面を読む投資家になりましょう。

私は今週も、缶コーヒー1本分の分配金を記録し続けます。そして年末の年間取引報告書で、ROC100%の分配が実際にどう処理されたのか。特定口座の「答え合わせ」は、判明し次第この人体実験記録で必ず続報します。あなたの口座で答え合わせが必要になる前に、ぜひまた読みに来てください。

📌 免責事項本記事は情報提供を目的としており、投資勧誘を目的としたものではありません。記載の数値は特定時点の実績であり、将来の成果を保証するものではありません。高分配型ETFには元本毀損・価格変動・分配金減少のリスクがあります。税務の取り扱いは個々の状況や証券会社の対応により異なるため、具体的な判断は税理士等の専門家にもご相談ください。投資判断はご自身の責任において行ってください。

参考一次情報ソース一覧(いずれも2026年7月17日確認)- REX Shares「AIPI – REX AI Equity Premium Income ETF」公式ページ(経費率・戦略・19a-1資料):https://www.rexshares.com/aipi/- REX Shares「Transition to Weekly Distributions for FEPI, AIPI, and CEPI」(2026年5月20日発表):https://www.rexshares.com/rex-shares-announces-transition-to-weekly-distributions-for-fepi-aipi-and-cepi/- AIPI 19a-1通知(2026年6月分・分配金内訳):REX Shares公式サイト掲載PDF- 分配金・株価実績:yfinance(Yahoo Finance)データを筆者照合(2026年7月16日終値基準)- BITA「BITA AI Leaders Select Index」指数methodology:https://www.bitadata.com/

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★今回使用した証券会社:マネックス証券 「SBIでFEPIが買えない!」と嘆いている同志へ。 私が使っているのはここです。銘柄スカウターも使えるので、変態ETFを探す旅には必須の装備です。

マネックス証券

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この記事を書いた人

真毅のアバター 真毅 自由人

趣味はカメラ、ランニング、読書。職業はシステムエンジニア。昔はリサーチハウスで企業調査、産業分析を行っていました。目標は投資で稼いでゆっくり生きる。資格はFP2級、証券アナリスト。投資対象は日本株、米国ETF、金、暗号資産、不動産。金融資産と実物資産の両輪で資産形成。

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