デフレ脱却の足音、しかしその理由は…
デフレ脱却の足音が聞こえる。2%以上の物価上昇が続き、賃金も30年ぶりの伸びである。
しかし、素直に喜ぶことはできない。物価上昇の理由が日本経済が強くなったからではないからだ。
世界的な供給制約、日本経済にも影響
実際、経済は新型コロナウイルス感染症以前の成長トレンドを下回っている。
とくに個人消費は4年前の水準さえなかなか回復できず、中期的にはマイナス成長のままだ。
コロナ前に比べて人や原材料が不足しがちになった結果、物価上昇と低成長が同時に引き起こされている、というのが実像であろう。
これは世界的な現象でもある。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は8月、米国ジャクソンホールにおける講演で、人手不足、エネルギー転換、地政学リスクなどの影響で、世界経済が供給制約に直面しやすい状況は長く続くだろうと指摘した。
円安も物価上昇を加速
主要国でコロナ前の成長トレンドを維持できているのは米国ぐらいだ。
イノベーション(技術革新)に優れているからではなく、資源と食料が豊富だからである。
それでも以前と同程度の成長で大幅な物価上昇が起きるのだから、米国経済の潜在成長率もおそらく低下している。
エネルギーを輸入に頼る欧州や日本は、当然のことながら状況はより厳しい。
とくに日本は食料の自給率も低い。
ウクライナ侵攻の影響などで世界的に高騰した資源・食料価格は中小企業や家計を直撃し、他の物やサービスに向かうはずだった購買力を奪う。
さらに円安が物価を押し上げる。低金利を続ける日銀が悪いと言う人もいるが、景気への影響を考えればどの国も利上げはしたくない。
米欧の場合は日本以上の激しいインフレに見舞われたので、やむなく大幅な利上げを決断したのである。
ここ1〜2年の円安は主にその影響であり、高インフレ国の物価上昇圧力が低インフレ国へ波及する、必然的な経路のひとつだと言える。だとすれば、それを押しとどめることは難しい。
内外の供給制約、日本経済の「新常態」に?
日本国内の供給制約としては、高齢化による人手不足がある。
賃金が上がりやすくなるという点で、働く個々人には良いことである。しかし経済全体でみれば、労働生産性を上げない限り、人手不足は経済成長を制約する。
デフレ脱却、新たな難題を克服せよ
経済停滞(スタグネーション)とインフレーションが同時に起きることを、スタグフレーションと呼ぶ。
1970〜80年代初めにかけて、2度の石油ショックが起きたころ使われた言葉である。
今起きているのはそこまで急性のショックではないが、日本経済は内外の供給制約の影響を長く受け続ける可能性がある。
供給制約の即効薬は少ない。
それでも、ラガルド総裁の見立て通り多くの国の「新常態」になるなら、対応を急ぐべきだ。
エネルギーや食料の自給促進、人手不足を突破するイノベーション、産業や地域経済の再編・集約化など、加速すべき政策は多い。最近の物価上昇は構造問題が解決されたからではなく、新たな難題が加わったことの警告である。
デフレ脱却などと浮かれている場合ではない。
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